利用報告書
課題番号 :S-19-OS-0003
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :金属・誘導体ハイブリット型メタマテリアル
Program Title (English) :Metal-Dielectric Hybrid Metamaterial
利用者名(日本語) :高原淳一
Username (English) :Junichi Takahara
所属名(日本語) :大阪大学, 大学院工学研究科, 精密科学・応用物理学専攻
Affiliation (English) :Dep. of Applied Physics, Grad. School of Engineering, Osaka University
1.概要(Summary)
光のメタマテリアル(metamaterial)とはメタ原子(metaatom)とよばれる人工的な光共振器構造を多数並べて構成される3次元有効媒質である。メタサーフェス(metasurface)とは2次元のメタマテリアルのことをいう。
近年、光学特性を動的に変化させるアクティブメタマテリアル/メタサーフェスの研究がさかんに行われている。先行研究として、1)MEMSを利用した機械的変形によるメタ原子の構造変化、2)液晶や電気光学変調ポリマーなどによるメタ原子の屈折率変化、3)酸化・還元反応によるメタ原子の組成変化、などの方法によってメタマテリアル/メタサーフェスの光学特性を変化させる多様な方法が実現されている。しかし、1)、2)は光学スペクトルの変化が小さいこと、3)は大きな変化が可能ではあるが高温が必要であることが課題であった。
金属・絶縁体相転移材料をメタサーフェスに導入できれば、相転移による金属(負誘電体)と誘電体という誘電率の大きな変化により、光学特性を大きく変化できる。我々は昨年度、温度相転移材料の二酸化バナジウム(VO2)を用いてメタサーフェスを作製し、反射スペクトルを温度により変化させることに成功した。今年度はこれを近赤外域における機能素子へ応用し、温度変化型画素ピクセルや放射冷却素子の適応型輻射率制御の実現を試みた。
ここではVO2を用いたメタ原子を画素ピクセルとして応用することで、温度によりパターンが変化する近赤外画像を実現したので報告する。
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
【実験方法】
パルスレーザーMBE装置を用いてPLD法により厚さ400nmのVO2薄膜を作製した。薄膜作製の基板にはVO2の(010)面と格子定数がよく一致するAl2O3の(0001)面(c面サファイア)を使用した。VO2のメタサーフェス構造において、強いMie共鳴を発生させるためには基板の屈折率がメタ原子より小さいことが望ましい。また、メタサーフェスを加熱する際に基板の熱伝導率が高い方が望ましいことから、基板としてc面サファイア基板を用いた。また、ターゲットとしてバナジウム酸化物の中で最も安定であり、酸化によって組成が変化しにくいV2O5を用いた。成膜後の位相変調型分光エリプソメーターによる誘電率の計測の結果、VO2薄膜が形成されていることが確認された。
作製したVO2薄膜に電子ビーム露光を用いて微細加工を行い、直径600nm、周期650nmのナノシリンダーアレイ構造を作製した(Fig.1)。作製した素子を基板ヒーターにセットし、基板温度を変化させながら、FT-IR(BRUKER, VERTEX 70v)によりメタサーフェスの反射率スペクトルの顕微分光測定を行った。また、赤外光学顕微鏡にて相転移温度(68℃)前後の赤外線反射画像を観測した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
VO2ナノシリンダーの赤外反射スペクトルの測定から、温度T=25℃のとき反射率は直径に依存して近赤外域1.5~1.7mmでピークをとることがわかる。このとき、温度をT=75℃に上げると、ピークは谷となり、全く異なるスペクトル示す。したがって、メタ原子の直径と波長をうまく選ぶと、相転移温度前後の反射率の変化率を制御することができる。すなわち、相転移温度前後で反射率をほとんど変化させないこともできるし、あるいは反射率を大きく変えることもできる。
このようにVO2を用いると相転移温度の前後で動的に反射特性を制御するデバイスを実現できる。その具体的な応用例を示す。Fig. 2は波長1.5mmにおける赤外光学顕微鏡画像の温度による変化である[2]。T=25℃のときには何もパターンが見えないが、温度をT=75℃にあげると、「HOT」という文字が白く(高反射率を意味する)浮き出して見える。これはあぶりだし(invisible ink)の一種であり、画像情報の多重化や偽造防止技術に応用できると考えられる。さらに、このような温度による光学特性の変化を吸収率(輻射率)の制御に応用することで、適応型放射冷却素子が実現できる[2,3]。
4.その他・特記事項(Others)
各装置の操作方法について御指導を頂いた分子・物質合成PFの支援員の方に感謝いたします。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Yusuke Nagasaki, Toshinori Kohno, Kazuki Bando, Hiroaki Takase, Katsumasa Fujita, and Junichi Takahara, “Adaptive printing using VO2 optical antennas with subwavelength resolution,” Appl. Phys. Lett. 115, 161105 (2019).
(2) 高瀬博章、高原淳一:「シリコンミー共振器を用いた自己適応型放射冷却素子」、第80回応用物理学会秋季学術講演会 19p-PA6-22(北海道大学 札幌キャンパス)2019年9月19日.
(3) 高瀬博章、長崎裕介、高原淳一:「アクティブ誘電体メタサーフェスを用いた自己適応型放射冷却素子」、日本光学会年次学術講演会 OPJ2019 5aC5 (大阪大学コンベンションセンター)2019年12月5日.
6.関連特許(Patent)
なし