利用報告書

カビ胞子の生存に係わるフリーラジカル信号の同定
石川健治
1) 名古屋大学

課題番号 :S-14-MS-1049
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :カビ胞子の生存に係わるフリーラジカル信号の同定
Program Title (English) :Identification of free-radical signal on fungal spores
利用者名(日本語) :石川健治
Username (English) :Kenji Ishikawa
所属名(日本語) :1) 名古屋大学
Affiliation (English) :1) Nagoya University

1.概要(Summary )
カビ胞子(Penicillium digitatum)の滅菌・不活性化処理をおこなったサンプルについて、Xバンド、Qバンド電子スピン共鳴装置を用いた計測を進めてきた.さらに極低温(10K)の測定をおこない、信号飽和特性や感度向上による解析、electron-nuclear-double resonance(ENDOR)の手法をもちいて、信号を与えるラジカルの分子構造について調べてきた。
これまで得られているESR信号は,カビの胞子状態での活性化に係わり、殺菌処理を行ったことにより消失する。そのため、胞子の不活化に大きく関わっていると考えられた。そのため、この信号が殺菌処理の及ぼす生体メカニズムを解明する手がかりになることが期待されている。そこで、生体分子の分子構造や不活化の生体メカニズムについて、先進の電子スピン共鳴技術を有効活用して研究した。

2.実験(Experimental)
ESP500 Bruker を使用して、Qバンド測定ならびにENDOR測定をおこなった。低温(LHe冷却)測定をおこない、ESR感度の増加を試みた。
試料は、カビ胞子を石英ガラス管に充填したものを測定した。さらに、カビ胞子に大気圧プラズマを照射した試料についても測定をおこなった。

3.結果と考察(Results and Discussion)
カビ胞子からフリーラジカル(g値2.004付近を中心とする非対称の信号)が検出された。この信号は大気圧プラズマ照射することによって、強度が低下して、別のスペクトル形状を有する信号が重畳しており、Qバンド測定をおこなうことで、信号分離をおこなった。スペクトルピーク特徴より、カビ胞子に存在するキノン様の信号と、過酸化ラジカルの信号が重畳していることが同定された。
ENDORにより、水素核や窒素核の二重共鳴信号を検出できた。キノン様分子上の水素分子位置の情報を得ることができた。
プラズマ処理によって、カビ胞子の不活化を生じることがわかっていたが、本ESR結果を得たことにより、プラズマ処理で発生した酸化性ストレス種の暴露によって、還元状態にあるキノン・フリーラジカルが酸化状態に変化して、同時に過酸化ラジカルの生成を生じていることが見いだされた。別に培養をおこない、カビ胞子の不活化との相関を考慮して、プラズマ処理がもたらす酸化性ストレス因子が不活化の要因であり、不活化のメカニズムは還元性のストレススカベンジャー(排斥因子)の消失であることが結論された。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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