利用報告書

一次元ロジウムーセミキノネート錯体の振動状態の解明
満身 稔, 小松 裕貴
1) 兵庫県立大学 大学院物質理学研究科

課題番号 :S-14-MS-1048
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :一次元ロジウムーセミキノネート錯体の振動状態の解明
Program Title (English) :Elucidation of the vibrational state of the one-dimensional rhodium–semiquinonato
complexes
利用者名(日本語) :満身 稔, 小松 裕貴
Username (English) :M. Mitsumi, Y. Komatsu
所属名(日本語) :1) 兵庫県立大学 大学院物質理学研究科
Affiliation (English) :1) University of Hyogo

1.概要(Summary ): 近年,伝導性,磁性,誘電性,光物性などの多重機能性を示す分子性物質の開発が注目されている.当研究室では,配位子の化学修飾によって金属のd軌道と配位子のπ*軌道のエネルギーレベルを制御することで,伝導性と磁性の多重機能性を発現する一次元ロジウム−ジオキソレン錯体の開発を目指した研究を行っている.このような視点から合成した一次元ロジウム−セミキノネート錯体 [Rh(3,6-DBSQ-4-NO2)(CO)2]∞ (1)と[Rh(3,6-DBSQ-4,5-(2R,4R-PDO))(CO)2]∞ (2)(図1)は,それぞれ177 K, 168 Kで構造相転移を起こし,この相転移の前後(室温相と低温相)で導電性と磁性が劇的に変化する.これらの錯体の室温相と低温相における明らかな構造の違いとしては,ロジウム原子とその周りの配位原子の温度因子の違いが挙げられる.室温におけるこれらの原子の温度因子は一次元鎖方向に大きく伸びており,室温相ではこれらの原子が大きな振幅で振動していることが示唆される.そこで,顕微ラマン分光装置RENISHAW inVIA Reflex を使用して,錯体1, 2 の顕微ラマンスペクトルの温度依存性を調べ,振動状態を明らかにすることを目的とした.さらに,錯体2は不斉炭素を導入したキラル錯体であるので,エネンチオマーについて円偏光二色性を調べた.

2.実験(Experimental):顕微ラマン分光装置RENISHAW inVIA Reflex を使用して,錯体1, 2 の顕微ラマンスペクトルの温度依存性を調べた.また,円二色性分散計を用いて,錯体2と[Rh(3,6-DBSQ-4,5-(R-1,3- BDO)(CO)2)]∞ (3) のCDスペクトルを測定した.
3.結果と考察(Results and Discussion):これまでの結晶構造解析から,錯体1, 2 のロジウム原子とその周りの配位原子の平均二乗変位は,一次相転移に伴い劇的に変化し,一次元鎖方向では大きな跳びが観測された.特に,ロジウム原子は室温相で大きく増加しており,一次元鎖方向に大振幅振動していることを示している.この結果と一致して,錯体1, 2 の室温相のラマンスペクトルは,低温相に比べ全領域に渡ってブロードニングを起こすことが分かった(図2).

特に,温度の増加に伴い150 cm–1 付近に非常にブロードなピークが現れており,このピークが Rh–Rh の大振幅伸縮に関係していると考えている.また,錯体2, 3 のCDスペクトルは,キラルな構造に対応する旋光度の符号の逆転が観測された(図3).

4.その他・特記事項(Others):なし.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation):なし.
6.関連特許(Patent):なし.

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