利用報告書

分子ナノカーボン材料の開発と水素終端化シリコン基板上への自己組織化単分子膜の作製
田中啓之、坂本裕俊、尾崎仁亮
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻(ERATO伊丹分子ナノカーボンプロジェクト)

課題番号 :S-16-NU-0004
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :分子ナノカーボン材料の開発と水素終端化シリコン基板上への自己組織化単分子膜の作製
Program Title (English) :
利用者名(日本語) :田中啓之、坂本裕俊、尾崎仁亮
Username (English) :
所属名(日本語) :名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻(ERATO伊丹分子ナノカーボンプロジェクト)
Affiliation (English) :

1.概要(Summary)
一次元細孔構造体のナノ空間に包接された分子が,通常とは異なる化学的・物理的性質を示す例が多数報告されている.分子性ナノ空間材料を利用することにより,新しい手法での機能創出が期待できる.我々がこれまでに合成開発してきた[n]シクロパラフェニレン ([n]cycloparaphenylene, [n]CPP)は,パラ位によりn個のベンゼン環が連結された特異なリング状構造を有するため,ナノ空間を作り出す分子性ナノ空間材料として有用であると考えられる.昨年度において,[12]CPPの結晶性固体中にヨウ素を包摂させた[12]CPP⊃I2の熱分析測定を行った.本年度は,サイズの異なるCPPに関する知見を得るために,図1に示す[10]CPPの結晶性固体中にヨウ素を包摂させた[10]CPP⊃I2の構造変化に伴う熱力学的な知見を得るため、示差走査熱量(DSC)測定を行った。

図1. [10]CPP⊃I2の結晶構造

2.実験(Experimental)
SII製DSC 6200を用いて,DSC測定を行った.[10]CPP⊃I2の粉末サンプルをアルミパンに封入し,空のアルミパン(リファレンスサンプル)とともに,試料室内に置いた.試料室内に乾燥窒素を30分間フローした後,160 Kから340 Kの温度範囲において,±10 K min-1で温度を掃引しながら,DSC曲線の測定を行った.

3.結果と考察(Results and Discussion)
340 Kからの冷却過程において,DSC曲線に特徴的なシグナルは観測されなかった.一方,昇温過程においては、270 Kから310 Kの温度範囲において,ベースラインのシフトが観測された.この結果は,昨年度に行った[12]CPP⊃I2のDSC曲線にも同様に見られたガラス転移に特徴的な挙動である.XRDの測定により、CPP分子からなるフレームワーク構造は温度変化によって大きな変化を起こさないことがわかっており,DSCの測定において観測されたガラス転移は,図1に示す[10]CPP⊃I2の結晶性固体中でのヨウ素分子I2の配列変化に由来するものであると推察された.すなわち,ヨウ素分子I2は低温領域においては秩序だった結晶相を形成しているが,310 K以上の温度領域では[10]CPPの内部ナノ空間内において無秩序相となることを示唆している.

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) N. Ozaki, H. Sakamoto, K. Itami, 第10回分子科学討論会2016(神戸), 平成28年9月15日.
(2) N. Ozaki, H. Sakamoto, T. Nishihara, K. Itami, 日本化学会第97春季年会2017, 平成29年3月18日

6.関連特許(Patent)
なし

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.