利用報告書

多周波EPR法を用いた光合成反応過程の解析
三野広幸1)
名古屋大学理学研究科

課題番号 : S-18-MS-1002
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :多周波EPR法を用いた光合成反応過程の解析
Program Title (English) :Analysis of photosynthetic reaction process investigated by multi-frequency EPR
利用者名(日本語) :三野広幸1),
Username (English) :H. Mino1),
所属名(日本語) :名古屋大学理学研究科
Affiliation (English) :Grad. School of Sci, Nagoya Univ.

1.概要(Summary )
光合成反応は光エネルギーを化学エネルギーに変換する多くの反応からなる過程である。光合成反応の主要課題としては反応中心タンパク質中の電子移動経路と電子移動機構の謎、高等植物の酸素発生機構の謎、光センサー応答などがあげられる。なかでも光合成の酸素発生機構は光合成研究における最大の謎とされ、長年多くの研究が行われてきた。2011年岡山大学の沈のグループにより酸素発生を行う光化学系Ⅱタンパク質複合体のX線結晶構造解析が1.9Åの分解能でなされた(Umena et al., nature, 2011)。反応機構はまだわかっていない。 酸素発生機構というのは4光子、つの中間状態(S0 からS4)の絡む反応であり、プロトンの放出や構造変化を伴いながら反応が進行する。 結晶構造解析で明らかになった構造はそのうち最も安定な中間状態(S1状態)であり、その構造がどのように変化して酸素発生を導くのかは依然謎である。 特に酸素発生時のクラスターの構造変化(S3⇒S0)は最重要である。S3状態については現在でもマンガンの価数などの論争が続いており状態が明らかになっていない。 2017年度沈らのグループはX線自由電子レーザーを用いてS3状態の構造を発表している(nature)。自由電子レーザーを用いた研究では米国のグループとの間でも論争になっている(Kern et al.,nature,2018)。 本研究はX線結晶解析と同じ試料を同じ条件のEPRでとらえ、酸素発生系について磁気構造及び相補的な情報を得ることを目的としている。あわせて、光合成関連タンパク質の光受容反応についても解析している。

2.実験(Experimental)
1.酸素発生系S3状態は整数スピンであり、X-bandでは低磁場でのみ観測可能であるが、高周波であるW-band EPRを用いることにより得られるEPR信号から詳細な構造情報が得られる。 本計画では、光化学系Ⅱの結晶を用いることによってS3状態でのマンガンの価数および配位子の情報を引き出すことが可能と考えられる。 光化学系Ⅱの結晶は非常に小さくスピン量も少ないためW-bandでのみ測定が可能である。

2.酸素発生系の基本骨格は3つのマンガンと酸素とカルシウム原子からなるcubaineの部分と1とのマンガンと1つの酸素からなる部分にわかれる。生化学処理による構造変化、および再構成過程での中間状態を多周波EPR法で追うことにより酸素発生系の構造機能情報を明らかにする。また、構造安定性の評価のため、熱ストレスを加えることによりひきおこされるマンガンの構造変化をEPR及び帯磁率測定で評価した。
3.青色光を用いるセンサータンパク質は光合成量の調節制御に用いられている。黄色植物における制御センサーオーレオクロムを用いて光照射に生成するラジカルを多周波EPRで解析し、プロトンを用いた光合成の反応制御機構を明らかにする。

3.結果と考察(Results and Discussion)
1.W-bandの装置およびQ-band装置を用いて光化学系Ⅱにおける未処理のS3状態とともに、カルシウムを除いた錯体におけるS3状態の検出に成功している。しかし、装置故障により計画が中断している。実験を継続して論文としたい。

2.酸素発生系からのMn除去を行い、Mnの結合能の強度をEPRおよび帯磁率測定を用いて測定した。 その結果、各Mnの結合能の違いを見出すことができた。 この結果は投稿準備中である。

3. フラビンセンサータンパク質PhotozipperはこれまでX線結晶解析によって異なった結晶構造が多数報告されていて度の構造が反応状態であるのかは明らかではなかった。本研究ではパルスEPR測定のなかでQ-bandを用いた高感度でのPulsed ELectron-electron Double Resonance(PELDOR)法によりフラビンラジカル間の磁気的相互作用の解析からタンパク質の構造を得た。これにより複数の候補の中から活性構造を特定することができた。この結果はBiochemistry誌に論文発表している。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) K. Ozeki, H. Tsukuno, H. Nagashima, O. Hisatomi, and H. Mino, Biochemistry (2018) 57, 494-497.

(2) Mino, H., Tsukuno,H., Ozeki, K., Nagashima, H., Kobayashi, I and Hisatomi, O., APES-IES2018 (invited), Brisbane, 23-27, Sept., 2018

(3) 三野 広幸, 佃野 弘幸,小関 康平, 小林樹, 久冨修,第56回電子スピンサイエンス学会年会, 北海道大学, 2018年11月1-3日

(4)酒井貴弘,三野 広幸, 第55回生物物理学会年会, 岡山大学, 2018年9月15-17日

6.関連特許(Patent)
なし

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