利用報告書

金属錯体の磁性測定
秋津貴城1), 原口知之1)
1) 東京理科大学理学部

課題番号                :S-20-NI-0019

利用形態                :技術代行

利用課題名(日本語)    :金属錯体の磁性測定

Program Title (English) :Magnetic Measurement of Metal Complexes

利用者名(日本語)      :秋津貴城1), 原口知之1)

Username (English)     :T. Akitsu1), T. Haraguchi1)

所属名(日本語)        :1) 東京理科大学理学部

Affiliation (English)  :1) Faculty pf Science, Tokyo University of Science

 

 

1.概要(Summary )

分子設計の自由度に優れて、多彩な分子磁性体を構築することが期待される、シッフ塩基を配位子とする遷移金属(反磁性の亜鉛)および希土類イオンを有する多核金属錯体を合成した。分子内で磁気的に希釈された単分子磁石(SMM)特性を示すような珍しいタイプの分子磁性体に着目して研究している。今回はそのようなサレン型亜鉛錯体―希土類イオンーサレン型亜鉛(Zn-Ln-Zn)三核金属錯体の分子磁性体について、SQUIDを用いてDC及びAC測定によって、磁気特性の確認や評価を行うこととした。あわせて結晶構造データや磁気特性の相関や予測についても議論する。

2.実験(Experimental)

SQIUD装置は、日本カンタムデザイン(株)社製 MPMS5を用いた。7種類の試料のうち、希土類イオンを含む2種類(Zn-Nd-Znと類縁のZn-Dy-Zn三核錯体)について、DC測定に加えてAC測定を行い単分子磁石としての挙動の有無を確認する。さらに5種の試料、遷移金属イオン含む化合物については、磁気特性の確認すなわち分子磁性体としての性状の有無を確認した結果、測定を行わなかった。

3.結果と考察(Results and Discussion)

Zn-Ln-Zn錯体が直線状架橋で連なった一連の三核錯体について、希土類イオンの種類や架橋の結合角度によって、SMM特性の有無が変化するとの報告がある。先行研究論文によると、より直線的なZn-Ln-Zn配置(Ln=Nd, Eu, Tb)はより強い磁気異方性を備えより優れたSMM特性が期待される。

このような配位構造の傾向から所望の磁性発現に有利な金属イオンならびにその配位環境を見出し、実際にサレン型錯体の配位子から炭素鎖を伸ばした2種類の三核錯体(M-Ln-M)を合成した。ここでLn(III)イオンにはNd(III)とDy(III)を選択して、現実的な分子設計として炭素鎖を伸ばすことで、嵩高いシッフ塩基Zn錯体に挟まれたLn(III)イオンとのM-Ln-Mの角度が直線的になること、Zn(II)イオンの周囲が正多面体型から歪むことを期待した。しかし、CSD中の結晶構造の統計から、注目しているM-N距離とN-C-C-N角度には一定の傾向があり、計算化学による予想構造では構造のチューニングに期待が持たれたものの、実際には自由に分子設計ができるわけではないことが明らかである。

さらにSQUID磁束計を用いて直流磁化率と、交流磁化率測定によるSMM特性の評価を行った。いずれの錯体も交流磁化率のCole-Cole プロットから完全にはSMMとしての挙動を示さないことが判明した。ちなみに、配位子場の対称性を考慮して、(イオン半径や立体反発より踏み込んだ現実に意図できる設計はメチレン基等の導入等に限定されるから)炭素鎖を伸ばしたサレン骨格にLn(III)イオンを配位させる戦略も試したが、合成・同定の段階で良好な結果を得られなかった。

今回の研究では、少数の構造データと磁気特性の相関から分子設計指針を見出し、その有効性を実証することは困難であった。この原因としては、データ数の不足や不適切な特徴量の抽出が考えられるが、実験化学の立場からは、詳細は今後まだまだ検討の余地があると考えている。

4.その他・特記事項(Others)

なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)

(1) S. Noor, F. Khatoon, N. Katsuumi, J. Iwama, T. Haraguchi, T. Akitsu, 錯体化学会第70回討論会, 令和2年9月29日

6.関連特許(Patent)

なし

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