利用報告書

Ni-PtおよびNi-Pt-Pdナノ粒子およびCu-Niナノワイヤーの生成機構
バラチャンドラン ジャヤデワン
滋賀県立大学工学研究科

課題番号 :S-17-JI-0001
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :Ni-PtおよびNi-Pt-Pdナノ粒子およびCu-Niナノワイヤーの生成機構
Program Title (English) :Ni-Pt and Ni-Pt-Pd nanoparticle and Elucidation of the formation mechanism of
(Cu-Ni) nanowire
利用者名(日本語) :バラチャンドラン ジャヤデワン
Username (English) :Balachandran Jeyadevan
所属名(日本語) :1) 滋賀県立大学工学研究科
Affiliation (English) :1) The University of Shiga Prefecture

1.概要
Ptは優れた触媒活性能を有するが、希少性の高い金属であると同時に、生産国の偏在や枯渇問題により使用量の削減が望まれている。本研究室では、Fig. 1aに示したようなPtが辺と頂点に偏在したケージ構造を有するNi95Pt5ナノ粒子合成技術の確立に成功した[1]。このナノ粒子は、Ptが還元した直後にNiがPtナノ粒子上に析出し、その後、Ptが粒子内拡散を起こすことで得られる。また、このナノ粒子は従来のPt触媒と比較して、Pt質量あたりで3倍の触媒活性能を示した。しかし、ケージ構造ナノ粒子の合成において、Ptの収率は34%と低く、大半のPtは還元されずイオンとして残留していた。この原因の一つとして、オレイルアミンとPtの錯体は高温域で還元が困難であることが確認された[2]。そこで本研究では、オレイルアミンが存在しない条件下でPtを還元させた後にNi前駆体塩とオレイルアミンを途中添加することや、Pt還元時に少量のオレイルアミンを添加する等の合成手法用いて収率の向上や粒径の減少、組成の制御されたNi-Ptナノ粒子の作製を目指した。

2.実験
Pt前駆体塩としてH2PtCl6・6H2O、還元剤および反応溶媒として1-ヘプタノール、界面活性剤としてオレイルアミンを任意の量加え、130 ℃で1 h反応させ、Ptナノ粒子を合成した。その後、Ni前駆体塩としてNi(CH3COO)2 • 4H2Oおよびオレイルアミンを途中添加した。この混合溶液を173℃まで昇温させた後、その温度で2 h反応させ、Ni-Ptナノ粒子を作製した。
Ni-Pt ナノ粒子の評価:得られた試料に対し、結晶相同定、形態観察、化学組成分析および表面分析を、それぞれX線回折(XRD)装置、電解放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)・走査透過型電子顕微鏡(STEM)、X線光電子分光(XPS)を用いて行った。た。また、ナノ粒子中のPtおよびNi原子の分布分析においては、ナノテクノロジープラットフォーム事業通じて原子レベルの分析が可能な、エネルギー分散型X線分析装置が装備されている原子分解能走査透過型電子顕微鏡・STEM-EDX(エネルギー分散型X線解析)装置、(日本電子 JEM-ARM200F)を用いた。

3.結果と考察
Pt還元時にオレイルアミンを添加せずに合成したNi-Ptナノ粒子をFig. 1bに示す。このナノ粒子の元素マッピング測定を行った結果、Pt-コアNi-シェルであることを確認した。コア-シェルナノ粒子が得られた要因として、PtとNiの還元時期の差が大きいためにPtが核として安定な状態になり、粒子内拡散を起こさなかったことが考えられる。そこで、Ptナノ粒子の合成時にオレイルアミンを少量加えることでPtの還元を遅らせ、還元時期の差を縮めることを試みた。Pt還元時にオレイルアミンを添加して合成したNi-Ptナノ粒子は、核がオレイルアミンによって保護されたことで凝集が防がれ、比較的小さいナノ粒子が得られたと考える(Fig. 1c)。しかし得られた粒子は、Fig. 1aのようなサイコロ形状ではなかった。これは、粒径の減少に伴い表面積が増大したことで、サイコロ形状の辺を形成するPtの量が不足していたと考えられる。そこで、Niの前駆体塩を減らしPtの組成比を増加させて合成を行った結果、Fig. 1dに示したようなサイコロ形状のナノ粒子を得ることに成功した。以上から、ナノ粒子の粒径に見合ったPt組成比が形態に関わっていると考えられる。また、10% Ptを用いて合成したNi-Ptナノ粒子のTEM像や元素マッピング結果をFi. 2に示す。上記の結果からもわかるように、Ptが表面に析出していることが確認できる。上記の解析結果より、本合成手法を用いることで、20 nm以下で収率が100%に近い組成・形態の制御されたNi-Ptナノ粒子の合成に成功した。また、Ni-Ptナノキューブ形成過程におけるPt錯体の構造変化についてUV-Vis およびEXAFSを用いたその場観察測定を行い大きな知見を得ている。

さらに、それらの粒子を用いた触媒活性などの応用に向けた評価については現在研究を継続して行なっている。

4.まとめ
本研究では、アルコール還元法を用いた新規Ni-Ptナノ粒子合成プロセスの開発に成功した。また、本研究で提案された方法により合成収率がほぼ100%でPt濃度の調整が可能な大きさ十数nm程度のNi-Ptナノ粒子の合成が可能になった。粒子の大きさやPt濃度の調整により、従来法で合成されたNi-Ptナノ粒子より高い電極触媒性能を持った材料の開発が可能になったと考える。

参考文献
[1] 長尾歩、滋賀県立大学工学部材料科学科、修士論文 (2016). [2] 谷口兼幸、滋賀県立大学工学部材料科学科、卒論文 (2017).

4.その他・特記事項
本研究の成果は、学術論文として投稿する準備を行なっていることから、一部の結果のみについて記述する。

5.論文・学会発表
In situ UV-Vis およびEXAFS測定を用いたNi-Ptナノキューブ形成過程におけるPt錯体の構造変化、谷口兼之,クヤ・ジョン,宮村 弘,バラチャンドラン・ジャヤデワン,日本化学会 第98春季年会2018

Ni-Ptナノ粒子合成におけるPt還元率の向上および形態制御技術の開発 : 谷口兼之,クヤ・ジョン,宮村 弘,バラチャンドラン・ジャヤデワン,日本化学会 第97春季年会2017
(2) アルコール還元法を用いた,core-shell, alloy Ni-Pdナノ粒子の作製, 江川 鎮永・クヤ ジョン・宮村 弘・バ ラチャンドラン ジャヤデワン,公益社団法人 日本化学会第96春季年会 2016

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