利用報告書
課題番号 :S-19-MS-0007
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :NMR装置を用いた糖鎖および糖タンパク質の動的構造解析
Program Title (English) :Structural analyses of glycans and glycoconjugates by use of NMR spectroscopy
利用者名(日本語) :矢木 宏和1), 佐藤 匡史1)
Username (English) :H. Yagi1), T. Satoh1)
所属名(日本語) :1) 名古屋市立大学大学院薬学研究科
Affiliation (English) :1) Nagoya City University
1.概要(Summary )
血液凝固因子などの分泌タンパク質は、一般的に、小胞体で合成されたのちゴルジ体を経て細胞外に分泌される。これまでにERGIC-53とMCFD2は、複合体を形成して、血液凝固第V因子および第VIII因子を小胞体からゴルジ体へ輸送することを助けていることが報告さている。ERGIC-53に関しては、血液凝固因子上の糖鎖を認識することを明らかにしてきたが、MCFD2に関しては、血液凝固因子のタンパク質部分を認識していると考えられているものの、未だその結合領域は明らかとなっていない。そこで本研究では、MCFD2が結合する領域を明らかにし、血液凝固因子の分泌にこの領域がどのような影響を与えるかを調べた。
一方で、抗体やエリスロポエチンなどの糖タンパク質は広くバイオ医薬品として使われている。現在、これらの生物製剤のほとんどは、培養動物細胞を利用して生産されているが、生産量を高めるために、プロモーターやコドンの最適化など様々な方法が試みられている。本研究では、血液凝固因子から見つけることができたMCFD2結合領域を、生物製剤であるエリスロポエチンなどに融合させることで、これらの発現量を上昇できるかどうかも調査した。その結果、血液凝固因子の由来のMCFD2結合領域である10残基のペプチドを目的とする糖タンパク質に融合するだけで、その生産量を高められることを見出した。
2.実験(Experimental)
MCFD2は、糖タンパク質の分泌経路において、血液凝固第Ⅴ因子(FⅤ)および第Ⅷ因子(FⅧ)を積荷として認識して細胞内輸送を担うタンパク質である。MCFD2の働きが損なわれると、これらの凝固因子の欠乏が引き起こされてしまう。本研究は、こうした疾患の分子機構を明らかにするため、800 MHz NMR装置(分子研ナノプラットフォーム協力研究・加藤晃一教授、矢木真穂助教との連携)を用いて、FⅤおよびFⅧの中のMCFD2結合領域の同定を試みた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
本研究では、FⅤおよびFⅧに存在する共通な配列が、MCFD2に認識される領域であると予想し、バイオインフォマティックス解析により、約10残基の共通配列 (SDLL(-/M)LL(K/R)QS) を見出した。さらには800 MHz NMR計測によりMCFD2とFⅧの各種欠失変異体の分子間相互作用を解析した結果、MCFD2はFⅧとFⅤに共通した10残基の共通配列を認識していることを明らかにすることができた(図1)。この配列を取り除くと第Ⅷ因子の分泌量が著しく低下することから、この配列はMCFD2がFⅧを積荷として見分けて効率的に運ぶための目印として働いていると考えられる。
さらに、この配列をエリスロポエチンのような全く別の糖タンパク質に組み込んだところ、それらの細胞内の輸送効率が顕著に向上することが判明した。この結果は、本研究で見出された特別な配列が、MCFD2が関わる細胞内の積荷糖タンパク質の輸送経路における“パスポート”として働いていることを示すものである。これを応用することにより、バイオ医薬品として用いられる糖タンパク質の分泌を効率化し、その生産を向上することが期待できる(図2)。
4.その他・特記事項(Others)
本研究の成果は、加藤晃一博士(生命創成探究センター/分子科学研究所)の研究グループらとの共同研究により得られたものです。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Yagi, H., Yagi-Utsumi, M., Honda, R., Ohta, Y., Saito, T., Nishio, M., Ninagawa, S., Suzuki, K., Anzai, T., Kamiya, Y., Aoki, K., Nakanishi, M., Satoh, T. and Kato, K., Improved secretion of glycoproteins using an N-glycan-restricted passport sequence tag recognized by cargo receptor. Nature Commun. 11, Article number: 1368 (2020)
6.関連特許(Patent)
「なし」







