利用者インタビュー

コンクリートの施工性、強度、耐久性を高める

―御社について教えてください。

当社は、資源・エネルギー・環境事業や社会基盤・海洋事業、航空・宇宙・防衛事業などを展開するIHIグループの関連会社です。主な業務は、コンクリートの研究・開発・販売と、コンクリート構造物の試験などです。

―SECコンクリートという特許工法を所有しているそうですね。

コンクリートは、打ち込んでから振動をかけることで内部に行き渡ります。また、鉄筋や補強材の周囲にすき間ができることは許されません。SECコンクリートは、施工性、強度、耐久性を高めるため、当社が長年にわたって研究を続けている工法です。1975(昭和50)年に特許を取得しました。

分離した水が上がって強度を弱める

―なぜこの工法が生まれたのでしょうか。

そのころ青函トンネルの工事が進められていました。海底にトンネルを掘りますから、海水圧に耐えられる工法が見つからず、工事は困難を極めたそうです。鋼管をアーチ状に曲げてトンネルを支えましたが何度も崩壊しました。そこで、管の中にモルタルを充填して補強するアイデアが考案されました。ただ、コンクリートを打つと分離した水が上がって強度を弱める「ブリージング」が問題となり、当時の所長が研究を始めました。すると、同じ配合なのに性質が違うコンクリートができることに気づいたのが工法の基礎となりました。

―通常のコンクリートとの違いはどこにありますか。

まず、材料は通常のコンクリートと同じで、水とセメント、セメントと砂・砂利の比率は全く一緒です。では、何が違うのかというと「練り混ぜ」の製造方法と手順です。いつ何をどういう順番で投入して練り混ぜて終えるか。これがポイントです。

材料を小分けに混ぜて“だま”を作らない

―製造方法を詳しく説明してください。

最初に砂利と砂、水で調整練りの下準備をした後、セメントを加えて一次練りを行います。さらに、途中で水と砂利、混和剤を加えて二次練りします。一連の作業の中では調整練りが重要です。砂利と砂の表面を水で均等に濡らしてからセメントを投入します。この状態でいったん練り、残りの水やセメントを入れると“だま”ができません。そばやうどんで粉に水を小分けに入れて生地を打つのと同じです。また、砂利と砂がセメントと水の表面をごりごりと練るため、コンクリートが滑らかになります。

―このコンクリートのメリットを教えてください。

コンクリートを打つ上で、ブリージングは問題です。内部に水が溜まってすき間が生じ、コンクリートの強度を弱めるからです。ところが、SECコンクリートは、固まるまでのブリージングが少なく、強度が高いことが証明されています。もちろん耐久性も優れています。ただ、なぜブリージングが減るのかは、実は分かっていません。

どういった要因が考えられますか。

砂利や砂は化学反応しませんので、滑らかなセメントペーストにすると水が上がりにくいです。また、だまが少ないと化学反応にムラがなくなります。セメント粒子のつながりや、振動をかけた時の流動性など仮説を立てて実験すると、仮説通りの結果は得られました。ただ、セメントペーストの中のセメントがどのように結合しているのかを観察したことはありませんでしたので、証明したいという気持ちが強かったです。

水の中でのセメントのつながりを初観察

―そこでナノテクノロジープラットフォームを利用したのですね。

セメント粒子の大きさは97%が5.5マイクロメートル以下です。一度、X線CTを試してみましたが、鮮明な画像は得られませんでした。そうなると電子顕微鏡を使うしかありません。しかし、電子顕微鏡は基本的に真空状態にして観察します。真空状態では水がすぐに蒸発してしまい、水の中でのセメントの連なりを見ることはできないと思っていました。

―そんな時にナノテクノロジープラットフォームの存在を知ったのですね。

2018年のことです。どうしてもあきらめきれず、いろんなところに問い合わせました。その中の一つが産業技術総合研究所でした。大気圧SEMという電子顕微鏡が九州大学にあることが分かり、ナノテクノロジープラットフォームというシステムがあることを知りました。10月に早速、利光史行特任助教と打ち合わせを行い、セメントの粉を見せたところ、観察できそうだという回答でした。そこで、現地で使用する材料や錬る道具などを用意し、12月に初めての観察に臨みました。超高性能反射電子顕微鏡も使わせてもらっていますが、大気圧SEMは格段に扱いが難しいです。使用可能な時間が30分と短く、ピントを合わせるだけで15分ほどかかってしまうので、実際の操作は利光特任助教にお願いしました。民間企業にも持っているところがあるでしょうが、とても高価な機器ですのでまず貸してくれません。水と反応するセメントの結合状態を約20年間見たいと思っていましたが、ようやく念願が叶って感動しました。

結果はどうだったのですか。

分割練り混ぜと一括練り混ぜを観察したところ、一括練り混ぜでは極微粒子(1マイクロメートル以下)は少なく、分割練り混ぜは5マイクロメートルの粒子の周囲に連なって存在していました。この極微粒子が鎖状に連なっていることが水をとどめる力になり、ブリージングを減らす現象に作用しているのではないかと思います。

今後はどういったことに取り組みますか。

セメントと水の化学反応時に出る水溶物からイオンを測ります。イオンが増えているのは照明されており、私たちは硫酸イオンを調べる予定です。先ほど砂利と砂がセメントと水の表面をごりごりと練ると言いましたが、その際に表面の水溶物も離れ、電荷の厚みが減ります。その結果、弱い結合状態が生まれ、滑らかさを生んでいると予想しています。また、この工法の普及を図るため、パソコン制御による作業の効率化や、同じ性能を維持したまま練り混ぜ時間を短縮することにも挑戦していきます。

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