物質・材料研究機構
2012年度 成果事例
【研究目的】
局在スピンや、高速電子移動度の観点からグラフェンナノリボンが注目されている。当研究室ではグラフェンナノリボンを合成する手法として、(1)アミロイド直鎖分子を炭化し、固相グラフェン化する方法、ならびに(2)ナノ加工技術を駆使して周期的歪みグラフェン面に導入してナノリボン特性を得る方法を試みている。ここで、実際にどのようなグラフェンが形成されているかを高分解顕微ラマン装置を用いて計測する必要がある。そこで今回、我々はfree-standingグラフェンに電子線照射を行い、ラマンスペクトルの変化からからグラフェン表面に誘起される歪量を評価した。
【成 果】
まずSiO2基板(300 nm)にNEBレジストを塗布し電子線リソグラフィーでパターンを作成し、その上にキッシュグラファイトをスコッチテープで剥離し、free-standingグラフェンの試料を作成した。(Fig. 1) 次に試料に10 keVの電子線を照射したときのラマンスペクトルの変化を調べた。(Fig. 2) 電子線のドーズ量に応じてグラフェンのGバンドのピークが低波数側にシフトしていることがわかる。これは、電子線照射によってfree-standingグラフェンに歪みが生じているためだと考えられる。
Gバンドのラマンシフトの変化量から歪みの大きさを見積もることができ、10 keVで最大0.25 %の歪みが生じていることがわかった。(Fig. 3) 同様の方法で違う試料に1 keVの電子線を照射させたところ最大で0.31 %の歪みが生じ、ドーズ量に対する歪みのグラフから1 keVの方が10 keVよりも大きく歪みが生じていることがわかった。
Reference: Murakami, Katsuhisa, Kadowaki, Takuya; Fujita, Jun-ichi, “Damage and strain in single-layer graphene induced by very-low-energy electron-beam irradiation”, Appl. Phys. Lett. 102, 043111 (2013)