大阪大学
2014年度 成果事例
【目 的】
次世代不揮発性メモリとしての利用が期待される遷移金属酸化物の抵抗変化現象は、フィラメント状の導電パスの形成/断裂によって生じるとされており、中でも、 熱アシストを受けた酸素イオンのマイグレーションによるスイッチングモデルが現在広く受け入れられている。このモデルではフィラメントは酸素欠損により構成され、その酸素欠損の生成/修復により抵抗変化が生じるとされているが、そうであるならば抵抗スイッチングはフィラメントと酸素リザーバー間の酸素イオンのやり取りに他ならない。多くの論文において、このモデルを元に議論が進められるが、フィラメントが酸素欠損で構成されるという見解が纏まりつつあるのに対して、酸素リザーバーに関しては依然さまざまな主張がなされており、理解が収束に至っていない。抵抗スイッチングの制御に向けて次なるフェーズへと進むには、フィラメントだけでなくその存在の是非と所在をふくめた酸素リザーバーの詳細を明らかにすることが重要となる。我々は、より直接的に酸素リザーバーの所在を確認する手法として、スイッチング毎に電極のみを自由に交換することが可能であるならば、その抵抗スイッチング特性から酸素リザーバーの所在を解明することが可能であると考えた。陽極を酸素リザーバーと仮定するモデルが正しければ、ReRAM構造においてフィラメントを形成(セット)した後に、陽極を別の電極と交換した場合には、そこにはフィラメントを断裂するのに必要な酸素イオンが蓄えられていないため、続くスイッチングにてフィラメントの断裂(リセット)が起こらないことが予想される。
本研究では、下部電極の取り外しが可能なReRAMテストセル構造を用いることにより、「陽極=酸素リザーバー」を仮定する抵抗スイッチングモデルの検証実験を行った。
【成 果】
作製したNiO/Pt構造のカンチレバーをPt, Au, Ni, TiNの各種下部電極へとアクセスできるよう準備した。セットを共通のPt電極上にて行い、リセットをPt, Au, Ni, TiNのそれぞれの電極上にて試みた際に確認される抵抗スイッチング特性を評価した。大気中においてセット、リセットをPt電極上にて確認した後、下部電極上の酸素分子と水を脱離するため、真空中(3.0×10-3 Pa以下)にて300℃で10分間、全ての下部電極をアニールした。その後、下部電極を室温(23℃)へと戻し、真空を保持したまま測定を行った。 Fig. 1に測定結果を示す。セット用Pt電極へとカンチレバー(Pt/NiO)を移動してセットを確認した後、リセット用Ni電極上へとカンチレバーを移動させ、リセットを試みた。その結果、Ni電極上にてリセットが確認された。続いて、セット用Pt電極にて再度セットさせた後、リセット用のPt電極上へとカンチレバーを移動し、リセットを試みた結果、Pt電極上においてもリセットが確認された。同様に、残るAu電極とTiN電極においてもリセットを試みた結果、全ての下部電極にて続くリセットが可能であることが確認された。下部電極材料の酸素解離吸着能の有無にかかわらずリセットが確認されたことから、酸素リザーバーは陽極ではなく、NiO膜内部に存在することが証明された。