奈良先端科学技術大学院大学
2014年度 成果事例
【目 的】
7個のベンゼン環が螺旋状に縮環した非平面型多環芳香族炭化水素[7]カルボヘリセン (Heli) は、通常、高い異方性を示すため、円偏光発光 (CPL) 材料への応用展開が期待されている。しかしながら、ヘリセンは一般に蛍光量子収率が極めて低く、結晶状態では異方性に乏しい集積構造となる。本研究では、これら2つの問題点を改善すべく、キノキサリンに着目した。キノキサリンは、強い電子求引性および優れた発光特性を示すだけでなく、結晶状態の配向性制御も可能となる。 本研究では、キノキサリン縮環型[7]カルボヘリセン誘導体 (Figure 1) を合成し、ヘリセン骨格を利用した一次元カラム状集合体の構築を試みた。さらに、蛍光量子収率の向上およびCPL特性の発現も検討した。
【成 果】
吸収、円二色性 (CD) および蛍光スペクトル測定から、キノキサリン導入に伴う長波長シフトが観測された。蛍光量子収率は、HeQuは0.07となり、Heli (0.02) と比べ、約4倍程度改善された。これは、蛍光放射速度定数の大幅な増加が寄与したためである。次に、集合体構造を評価するため、単結晶X線構造解析を行った。エナンチオピュア体であるP-HeQu-Aniはキノキサリンユニット間のp–pスタッキングによるダイマーを基盤とする結晶構造であった。一方で、ラセミ体のrac-HeQu-Aniでは、ヘリセンユニット間のp–p相互作用による一次元カラム状集合体と全く異なる構造となった (Figure 2)。さらに、キノキサリンユニットを利用したカラム間に注目してみると、CH-N相互作用による配向制御が観測された。以上、キノキサリンユニットを用いることで、エナンチオピュア体とラセミ体で、集積体の構造制御に成功した。また、rac-HeQu-Ani単結晶の時間分解蛍光スペクトルを測定したところ、長波長側にエキシマー発光と思われる新たなピークを観測することに成功した (Figure 3) 。
次に、ピラジン環の片方の窒素原子のみを還元し、キノキサリンユニット内部に非対称な電子状態を発現させたDPheQuに着目した。蛍光量子収率の測定から、DPheQuでは0.25となりHeliの0.02 と比較すると10倍以上の大幅な向上に成功した。この結果を基に、CPLスペクトルを測定した。その結果、DPheQuは~4.0×10-3と有機分子としては良好なgCPL値が得られた (Figure 4) 。今回、キノキサリン縮環新規[7]カルボヘリセンを合成に成功した。本ヘリセンはラセミ体において、ヘリセン骨格を利用した一次元カラム状集合体の構築に成功した。さらに、キノキサリンを縮環させることで蛍光量子収率は大幅に向上した。その結果、有機分子としては良好なCPL特性の発現にも成功した。
Figure 1. Chemical structures of new [7]carbohelicene derivatives.
Figure 2. Crystal structure of rac-HeQu-Ani. Red: P-enantiomer, Blue: M-enantiomer, Green: pyrazine ring and Yellow line: p-stacking distance.
Figure 3. Time-resolved fluorescence spectra of rac-HeQu-Ani. Excitation wavelength: 390 nm.
Figure 4. CPL spectra of DPheQu in THF.