分子科学研究所
2014年度 成果事例
【目 的】
数GPa規模の高圧力と光照射を組み合わせることで、これまでにない光化学が展開されている。そのような高圧力環境に束縛された電子状態を記述するため、PCM (polarizable continuum model) SAC (symmetry-adapted cluster)及びSAC-CI (SAC-configuration interaction)法を拡張し、閉じ込められた分子系の量子化学計算を行う。励起エネルギーや電子状態に対する圧力の効果を明らかにする。
【成 果】
圧力は熱力学的な状態量であり、単分子計算とは、統計力学的アンサンブルにより関連付けられる。カノニカルアンサンブルを用いると圧力(p)は、自由エネルギー(G)の体積(V)微分に負符号を付した量で表される。
このエネルギー変化は、主に分子間相互作用に起因し、特に高圧力ではパウリ反発項による分子間斥力が支配的要因となる。
我々は、1) PCMの溶質‐溶媒相互作用項にパウリ反発項を加える。2) 系の体積をPCMのキャビティの体積に関連づける。ことにより、超高圧力にある分子を単分子の量子化学計算でモデル化した。
テストとして、シクロヘキサン溶媒中に閉じ込められたフラン分子(C4H4O)の計算を行った。図にフラン分子の励起エネルギーの圧力依存性を示す。圧力に対する励起エネルギー変化は電子状態に大きく依存し、特にRydberg状態は圧力をかけると大きく不安定化する。その結果、価電子励起とRydberg励起のエネルギー順序の圧力による逆転が見られた。また高圧力の効果が、エネルギーだけでなく、電子構造にも大きな影響を与えることが分かった。
シクロヘキサン溶媒中に閉じ込められたフラン分子(C4H4O)のモデル
計算された圧力(pressure)に対するフラン分子の励起エネルギー(excitation energy)変化