利用報告書

かご型シルセスキオキサンを基盤とした元素ブロック高分子材料の開発
中  建介
京都工芸繊維大学工芸科学研究科

課題番号(Application Number):S-16-NR-0016
利用形態(Type of Service):共同研究
利用課題名(日本語) :かご型シルセスキオキサンを基盤とした元素ブロック高分子材料の開発
Program Title (English) :Development of Element-Block Polymeric Materials based on Caged Silsesquioxanes
利用者名(日本語) :中  建介
Username (English) :K. Naka
所属名(日本語) :京都工芸繊維大学工芸科学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Science and Technology, Kyoto Institute of Technology

1.概要(Summary )
 かご型オクタシリケート(OS)は剛直な立方体構造を有するのみならず、各頂点に有機官能基を有することで有機無機ハイブリッド材料のナノビルディングブロックとして注目されている。当研究室ではこれまでに、OS核デンドリマーはOS骨格に基づいた特徴的なデンドリマー構造によって、側鎖間の運動性が抑制され末端基がデンドリマー表面に多く分布した球状分子構造を形成していることを明らかにしてきた。さらに2種類の機能団を末端部位に交互に導入することで単一分子として複数の機能を付与させることが可能である1)。本研究ではこれを光学材料において重要な低屈折率化フィラーに展開した。低屈折率化フィラーの分子設計としてはフッ素や空隙の導入が考えられるが、フッ素は凝集しやすくフィラーとしての分散性が悪くなることや溶解性が低く扱いにくいといった問題点が、空隙の導入においては機械的強度の低下といった問題点が考えられる。そこで互いに相溶化しないパーフルオロカーボンとハイドロカーボンを交互に末端に有するOS核デンドリマー(OS-CF)を設計合成した(Scheme 1)。OS-CFはOS核デンドリマーの特徴によってフッ素の凝集を抑制しつつ、アルキル鎖によって溶解性やポリマーマトリックスとの親和性の向上が考えられる。そのためOS-CFを用いることで一般的に汎用高分子に混和することが困難であるフッ素成分を高濃度で導入できると考え、OS-CFをフィラーとしてポリメチルメタクリレート(PMMA)に導入したコンポジット膜を作製し、膜の光学特性、熱特性について検討した。

2.実験(Experimental)
 末端にコハク酸無水物を有するOS(OS-SA)に1-デカノールを加え付加反応を行い、次いで1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカノールを加え縮合反応を行い、分液と再沈殿、さらにGPCによって精製することでパーフルオロカーボン・ハイドロカーボン末端OS核デンドリマー(OS-CF)を収率26%で得た。OS-CFの構造は1H,13C,29Si-NMR(Bruker DPX-400 spectrometer)、FT-IR(ASCO FT/IR-4100 spectrometer)およびMALDI-TOF MS(Bruker Autoflex II)により行い、末端にパーフルオロカーボン部位とハイドロカーボン部位の定量的な導入をそれぞれ確認した。またOS-CFのデンドロン部位と同様の構造を持つモデル化合物(OS-I)も同様の方法で合成した(収率36%)。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 OS-CFの構造は1H、13C、29Si-NMRおよびFT-IR測定によって確認した。またMALDI-TOF MSによりナトリウム付加体のピークを確認した(Fig. 1)。

Fig. 1 MALDI-TOF MS spectrum of OS-CF.

 PMMAにフィラーとしてOS-CFまたはOS-Iを加えクロロホルム溶液にした後、ガラス基板にキャストすることでコンポジット膜を作製した。OS-CFを5 wt%、10 wt%および20 wt%加えた膜をそれぞれ作製した。またOS-Iを10 wt%、16.8 wt%および20 wt%加えた膜をそれぞれ作製した。OS-CFおよびOS-Iをフィラーとして加えたコンポジット膜の透過率を比較したところ、OS-Iでは10 wt%導入した時点で白濁したのに対し、OS-CFでは20 wt%導入した膜でも高い透明性を有していた(Fig. 2)。このことからOS-CFはその構造によってフッ素の凝集を抑制したことで均一に分散したのに対し、OS-Iはマトリックス内で凝集構造を形成しているものと考えられる。またOS-CFをフィラーとして加えることによってPMMAの屈折率(1.4914)を段階的に低下し、20 wt%加えた膜の屈折率は1.4743まで低下させることに成功した[Figure 1]。さらにDSC測定の結果から、OS-CFをフィラーとして加えたコンポジット膜のガラス転移温度は純粋なPMMA膜のガラス転移温度と比べ向上した一方、OS-Iをフィラーとして加えたコンポジット膜ではPMMA膜と比べガラス転移温度が低下した[Figure 2]。これらの結果より、OS-CFは熱安定性の面からもフィラーとして有用であることが示唆された。

Fig. 2 Photographs of the composite films containing OS-CF and I-CF in PMMA.

4.その他・特記事項(Others)
本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「元素ブロック高分子材料の創出」(領域番号2401)課題番号24102003により行った。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Irie, Y.; Yuasa, S.; Imoto, H.; Naka, K. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem. (2017), 55(5), 912-918.
(2) 湯浅颯太、入江康行、井本裕顕、中 建介、第65回高分子討論会、平成28年9月15日
6.関連特許(Patent)
なし

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