利用報告書

かご型シルセスキオキサンを基盤とした元素ブロック高分子材料の開発
中 建介、井本裕顕
京都工芸繊維大学分子化学系

課題番号 :S-19-NR-0025
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :かご型シルセスキオキサンを基盤とした元素ブロック高分子材料の開発
Program Title (English) :Development of Element-Block Polymeric Materials based on Caged
Silsesquioxanes
利用者名(日本語) :中 建介、井本裕顕
Username (English) :K. Naka, H. Imoto
所属名(日本語) :京都工芸繊維大学分子化学系
Affiliation (English) :Faculty of Molecular Chemistry and Engineering, Kyoto Institute of
Technology

1.概要(Summary )
有機成分と無機成分をナノレベルで複合化させた有機無機ハイブリッド材料は、有機材料の加工性と無機材料の耐久性といった長所を兼ね備えているだけでなく、それぞれの材料とは全く異なった新しい特性を発現する為、近年盛んに研究が行われている。かご型シルセスキオキサン(POSS)は剛直で耐熱性の高い無機骨格の各頂点を容易に有機成分で修飾可能な明確な単一分子であることから、有機無機ハイブリッド材料のナノビルディングブロックとして期待されている。
POSSはその置換基の違いにより物性が変化することが知られているが、その無機骨格の立体構造変化の物性への影響に関する研究はあまり行われていない。そこで、本研究ではPOSSの1頂点が欠損した不完全POSSトリシラノールと1辺が開裂した不完全POSSジシラノールに着目し、これらのシラノール部位に発光性分子であるカルバゾールを修飾した不完全POSS誘導体を合成し、それらの種々の測定を行うことで、不完全POSSの無機骨格構造による特性の変化について検討した。
2.実験(Experimental)
トリシラノールおよびジシラノール各々とクロロジメチルシランを反応させ、シラノール部位にSi-H基を導入した不完全POSS誘導体(1a,1b)を各々得た(Scheme 1)。精製は分液と再沈殿により行い、同定は各種NMR、GPC測定により行った。得られた1aおよび1b各々を、白金触媒を用いたヒドロシリル化反応によりビニルカルバゾールと反応させ、カルバゾールが導入された不完全POSS誘導体(2a, 2b)を各々得た(Scheme 1)。精製はHPLCと金属スカベンジャーにより行い、同定はBruker Autoflex II instrumentによるMALDI-TOF MS測定、および各種NMR測定により行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)

Scheme 1. Syntheses of carbazole-substituted (a) corner- and (b) side-opening IC-POSSs.

(a)

(b)

Figure 1. MALDI TOF MS spectra of 2a (a) and 2b (b). Matrix: DCTB (20 mg/mL in CHCl3), cationizing agents: TFANa (1 mg/mL in THF).

Figure 2. (a) UV-vis and (b) PL spectra of 2 and 9-ethylcarbazole in THF solutions ([carbazole unit] = 5.0 × 10-5 M). (c) PL spectra of 2 and 9-ethylcarbazole in the solid states.

得られたカルバゾール含有不完全POSS誘導体(2a, 2b)のTHF溶液の紫外可視吸収および蛍光測定を行ったところ、いずれもカルバゾール単量体のみの吸収および発光がみられた(Fig. 2a,b)。また、固体状態ではどちらも部分重なり型エキシマ―に由来する発光がみられ(Fig. 2c)、不完全POSS構造に起因した発光特性の違いはみられなかった。一方、9-Ethylcarbazoleの固体状態では完全重なり型エキシマ―が形成されることから不完全POSSに導入することで完全重なり型エキシマ―の形成が抑制されることが分かった。
次に、2aおよび2bのクロロホルム溶液により得られたキャスト膜では、前者は透明膜が得られたのに対し、後者は不透明となりフィルム中での凝集状態に違いがみられた。また、XRD測定およびDSC測定により明らかに2bよりも2aの方が結晶性が低いことが分かった。DFT計算によって最適化した構造を比較したところ、不完全POSS構造の対称性に違いが見られ、これが結晶性の違いに関係していることが示唆された。
さらに、2aおよび2bを発光層に用いたEL素子を作製し、構造の違いによるEL特性について比較を行った。成膜性を向上させるためにポリフェニルシルセスキオキサン(PPSQ)に2aおよび2bを各々0.5wt%になるように混合したコンポジット膜を用いた。輝度-電圧特性評価の結果、結晶性が低い2aにおいて高い発光効率を示すことが分かった(Fig. 3)。

Figure 3. (a) Current density and luminance curves versus driving voltage and (b) photographs of OLEDs using PPSQ- composites with 2a and 2b as emission centers.

カルバゾール含有不完全POSS誘導体(2a, 2b)を合成し、各種物性測定を行った。その結果、不完全POSSの無機骨格の立体構造変化により、結晶性が大きく変化することが分かった。その結晶性の違いが、有機ELの発光層に用いた際の発光効率の差に影響を与えることが分かった。不完全POSSの構造-物性相関を明らかにした初めての例であり、不完全POSS材料を設計する上での重要な指針となる。
以上の成果はEur. J. Inorg. Chem誌に掲載され、Front Coverに採用された。

4.その他・特記事項(Others)
本研究は、文部科学省科学研究費補助金挑戦的研究(萌芽)(課題番号JP18K19114)および文部科学省科学研究費補助金若手研究(課題番号JP17H14530)により行った。
 EL素子作製および評価でお世話になりました大阪産業技術研究所森之宮センターの渡瀬星児博士および中村優志博士に、質量分析測定でお世話になりました奈良先端科学技術大学大学の河合壮先生および技術職員西川嘉子様に感謝致します。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) H. Imoto, Y. Ueda, Y. Sato, M. Nakamura, K. Mitamura, S. Watase, K. Naka, Eur. J. Inorg. Chem. (2020), 2020, 737-742.
(2) 上田幸歩、佐藤友理、中村優志、渡瀬星児、井本裕顕、中 建介、第68回高分子討論会、平成31年9月27日 

6.関連特許(Patent)
なし

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