利用報告書

かご型シルセスキオキサンを基盤とした元素ブロック高分子材料の開発
中 建介、井本裕顕
京都工芸繊維大学分子化学系

課題番号 :S-20-NR-0023
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :かご型シルセスキオキサンを基盤とした元素ブロック高分子材料の開発
Program Title (English) :Development of Element-Block Polymeric Materials based on Caged
Silsesquioxanes
利用者名(日本語) :中 建介、井本裕顕
Username (English) :K. Naka, H. Imoto
所属名(日本語) :京都工芸繊維大学分子化学系
Affiliation (English) :Faculty of Molecular Chemistry and Engineering, Kyoto Institute of Technology

1.概要(Summary )
完全縮合型かご型シルセスキオキサン(完全POSS)は、シロキサン結合からなる剛直な無機骨格と、その周囲に修飾が容易な有機置換基とを持つ単一分子である。よって、POSSはナノ構造のよく制御された有機無機ハイブリッド材料のビルディングブロックとして期待されている。側鎖に完全POSSを有する側鎖型POSSポリマーには多数の研究例があり、種々の物理的特性の向上が報告されているが、完全POSSの高い結晶性に起因して、POSSユニットを高濃度に含む側鎖型POSSポリマーから透明性樹脂は得ることは難しい。一方、POSSには完全POSSの他に、無機骨格の一部が加水分解した不完全縮合かご型シルセスキオキサン(不完全POSS)が知られている。当研究室では、不完全POSSが完全POSSと同程度の耐熱性を保ちながら結晶性を大きく低下させられることを見出している1) 2)。そこで本研究では、2種の不完全POSSに対して1つの官能基を選択的に導入する手法を開拓し、一官能性POSSモノマーを誘導した。それらを単独重合することで側鎖型POSSポリマーを合成し、キャスト法により作製したフィルムを用いて熱特性・光学特性の評価を行った。

2.実験(Experimental)
トリシラノール(1a)にクロロトリエチルシラン、次いでクロロジメチルシランを加え、Si-H基を1つだけ持つ不完全POSS誘導体(1b)を合成した。同様に、ジシラノール(2a)とジクロロメチルシランを反応させ、Si-H基を1つだけ持つ不完全POSS誘導体(2b)を合成した。1b, 2bに対して、エチレングルコールモノアリルエーテルを加えてヒドロシリル化反応を行い、モノマー前駆体(1c, 2c)を得た。次に、1c, 2cに塩化メタクリロイルを加えて縮合反応させ、メタクリル酸メチルを末端に持つモノマー(1d, 2d)を合成した(Scheme 1)。1d, 2dをそれぞれ単独でラジカル重合させることにより、ポリマー(1e, 2e)を得た。同定は各種NMR、MALDI-TOF MS、GPC測定により行った。

Scheme 1 Syntheses of monomers.

3.結果と考察(Results and Discussion)
TGA測定により、得られたポリマー1e, 2eの窒素雰囲気下での5%重量減少温度は市販のPMMAよりも高い値を示し、POSSが持つ高い耐熱性がポリマーに強く反映されていることが分かった。さらに、1eは2eよりも耐熱性に優れることが示唆された(Table 1, Fig. 1a)。
DSC測定の結果からは、-50 °Cから200 ℃の範囲において2eにはガラス転移点が見られたものの、1eにはガラス転移点は見られなかった。1e, 2eの有するかご構造の基本骨格である1b, 2bについてもDSC測定を行った結果、1bに見られなかった融点が2bには見られたことから、不完全縮合したかご構造1bは完全縮合したかご構造2bよりも結晶性が低いことが示唆された。よって、1bの一部を有する1eは、2bの一部を有する2eよりも結晶性が低いと言える。それゆえ、分子内でのPOSSの凝集力や分子間でのPOSSの物理架橋の程度は1eの方が小さく、主鎖の運動性はより大きいと考えられる(Fig. 1b)。

Table 1 Thermal properties and refractive index
of 1e, 2e and PMMA.
Polymer Td5 (°C) Tg (°C) Refractive index
1e 313 n.d. 1.457
2e 273 121 1.460
PMMA 166 76 1.491

(a)

(b)

Fig. 1 (a) TGA thermograms and (b) DSC curves of 1e, 2e and PMMA (under N¬2, 10 °C / min).

また、ポリマー1e, 2eのクロロホルム溶液をガラス基板上にキャストすることにより、いずれも可視光透過率が99%以上の透明な薄膜が得られた。2eはかご構造が完全縮合しているにも関わらず、その対称性が完全POSSよりもわずかに低いためにPOSS骨格同士の結晶化が抑制され、高濃度にPOSSユニットを含みながらも高い透明性が担保されていることが示唆された(Fig. 2, 3)。
さらに、アッベ屈折計により屈折率を測定したところ、ポリマー中のPOSS成分の割合が同程度である1e, 2eの屈折率はいずれもほぼ同じ値であったが、PMMAよりも低い値であった。これは、PMMAよりも屈折率の低いPOSSを側鎖へ導入したことによるものだと考えられる (Table 1)。

Fig. 2 Photographs of the polymer films of 1e (left) and 2e (right).

Fig. 3 UV-Vis spectrum of the polymer films.

続いてXRD測定を行った。1e, 2eの両方で2θ = 19°を中心としたブロードなハローピークと2θ = 7.5°のブロードなピークが観測されたことにより、アモルファス性ポリマーであることが分かった。また2θ = 7.5 °のピークはdスペースが約1.2 nmであり、この値はPOSS骨格に相当するものである(Fig. 4)。

Fig. 4 XRD measurement of the polymer films.

4.その他・特記事項(Others)
2020年度試行的利用の採択を受け実施し、MALDIの測定でNAISTの河合壯教授及び技術職員・西川嘉子氏に御担当いただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) A. Igarashi, Y. Ueda, R. Katoh, H. Imoto, K. Naka, J. Polym. Sci. 59 (2021) p.p. 131-138.
(2) 五十嵐天人、上田幸歩、井本裕顕、中建介, 第6回材料Week, 令和2年10月14日

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