利用報告書
課題番号 :S-16-MS-1001
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :ねじれたポルフィリン金属錯体の磁気的相互作用の研究
Program Title (English) :Magnetic interaction of twisted porphyrin metal complexes
利用者名(日本語) :吉田 拓矢, 平岡 勇哉,忍久保 洋
Username (English) :T. Yoshida, Y. Hiraoka, H. Shinokubo
所属名(日本語) :名古屋大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Graduate school of engineering, Nagoya university
1.概要(Summary )
当研究室では、種々のポルフィリン骨格に対して嵩高い置換基等を導入することで非常に大きなねじれを有するポルフィリン分子を合成することに成功している。磁性金属を導入したポルフィリンやポルフィリンラジカル種にねじれを導入した場合、その物性がどのように変化するのかは磁気的相互作用が軌道の重なりに強く影響を受けると考えられることから非常に興味がもたれる。
また、強い反芳香族性をもつポルフィリン類縁体であるノルコロールの合成に成功している。最近、ノルコロールをπ拡張すると開殻性が現れることを見いだした。この開殻性について詳細に分析し、その発現機構を明らかにするべく測定を行った。また、ノルコロールはポルフィリンよりも小さな内部空孔を有する。従って、この小さな配位サイトに銅などの磁性金属を挿入した場合に金属の価数の変化も含めて電子状態の変化に興味がもたれる。
これらの特徴ある分子群の磁気的物性を明らかにするために極低温でのEPR測定やSQUID型磁気特性測定装置による温度依存磁化率測定を行った。このような極低温での測定には多量の液体ヘリウムを必要とするため、分子科学研究所のように大容量のヘリウム回収装置を有する研究機関が必要不可欠である。
2.実験(Experimental)
EPRスペクトルの測定は、電子スピン測定装置Bruker 社製E-500およびをE-680用いて行った。溶媒にはジクロロメタンを使用し、極低温棟のサンプル準備室の真空ラインを利用して凍結脱気を3回行い溶存酸素を取り除いた。
磁気特性の測定は、SQUID型磁気特性測定装置QuantumDesign社製 MPMS 7およびMPMS XL7を使用して2−300Kの温度範囲で測定を行った。温度に対する磁気モーメントの変化を測定した。また、2Kにおいて7Tまでの磁場の変化に対する磁気モーメントの変化の測定も行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
外周部に遷移金属を導入したねじれたポルフィリン分子のスピン状態ついて測定・解析を行った。SQUID型磁気特性測定装置による磁化率の温度依存性の測定の結果から、スピン状態はS=1/2であると決定することができた。さらに、EPR測定からスピンが金属上ではなく配位子上にあることが示唆された。以上の結果から、外周部に遷移金属を導入した結果、ポルフィリン配位子部位のLUMOが大きく低下し、還元されやすくなった結果、何らかの還元剤からの電子移動によりラジカルアニオンとなっていると結論することができた。
また、π拡張ノルコロールの開殻性について調べた。EPR測定からは、スピンがπ電子系上に非局在化していることが示唆された。また、温度可変EPR測定およびSQUID測定から温度の上昇とともに磁化率が上昇することが明らかになった。これらの結果は、開殻種が一重項ビラジカル性をもっていることを示唆している。
一方、ノルコロール銅錯体の電子状態について明らかにするため、EPR測定を行った。その結果、4つの窒素原子に由来する明確な分裂が観測され、銅の価数が二価であると同定することができた。しかし、g値およびスペクトル形状は典型的なポルフィリン銅錯体のそれとはかなり異なっており、さらなる解析が必要である。
4.その他・特記事項(Others)
分子科学研究所極低温棟での機器利用に際して、いつでも測定装置が利用できるように整備していただいている、分子科学研究所機器センター藤原基靖様および伊木志成子様に感謝申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 吉田 拓矢・高橋功太郎・酒巻大輔・関修平・山田 容子・忍久保 洋, 日本化学会第97春季年会,平成29年3月.
(2) 米澤 翼・廣戸 聡・忍久保 洋, 日本化学会第97春季年会,平成29年3月.
(3) 吉田拓矢, 平岡勇哉, 高橋功太郎, 山田 容子, 忍久保 洋, 第27回基礎有機化学討論会, 平成28年9月.
(4) 平岡勇哉, 三宅由寛, 忍久保 洋, 第27回基礎有機化学討論会, 平成28年9月.
(5) 米澤翼, 平岡勇哉, 忍久保洋, 第27回基礎有機化学討論会, 平成28年9月.
(6) Y. Hiraoka, Y. Miyake, H. Shinokubo, 9th International Conference on Porphyrins and Phthalocyanines, 平成28年7月.
(7) T. Yoshida, K. Takahashi, H. Yamada, H. Shinokubo, 9th International Conference on Porphyrins and Phthalocyanines, 平成28年7月.
6.関連特許(Patent)
(1) なし







