利用報告書
課題番号 :S-16-MS-0041
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :アニオン性ニッケル錯体を鍵中間体とするブタジエンの官能基化反応に関する理論研究
Program Title (English) :Theoretical study on functionalization of 1,3-butadiene catalyzed by an anionic nickel complexes
利用者名(日本語) :岩﨑 孝紀
Username (English) :T. Iwasaki
所属名(日本語) :大阪大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Department of Applied Chemistry, Osaka University
1.概要(Summary )
我々はニッケル触媒をもちいる事により、ブタジエンの二量化を伴ったフッ化アルキル、アリールグリニャール試薬との多成分反応を見出している(eq 1)。本反応は以前に報告したハロゲン化アルキルとグリニャール試薬とのクロスカップリング反応と共通の触媒活性種を含むと考えられ、この2つの反応の選択性の発現メカニズムに興味が持たれる。本研究では、計算科学的手法により反応経路の解明と競合するふたつの反応の選択性について検討を行った。
2.実験(Experimental)
本反応の推定反応機構をScheme 1に示す。推定反応機構をもとに構築した分子モデルについて自然科学研究機構分子科学研究所計算科学センターにおいて密度汎関数法を用い、構造の探索を行った。構造最適化はM06/6-31G(d,p)により行い、最適構造のエネルギー計算はM06/6-311+G(d,p)レベルにおいてSMDモデルにより溶媒効果を考慮して行った。
Scheme 1. Possible reaction pathways
3.結果と考察(Results and Discussion)
アニオン性錯体Bとフッ化アルキルとの反応はふたつの可能性がある。すなわち、-アリル基の-炭素がフッ化アルキルに対して求核攻撃することにより、多成分反応を与える経路と、Niが求核攻撃することによりクロスカップリング生成物を与える経路である。この選択性を明らかにするために、アニオン性錯体Bとフッ化アルキルとの反応についてMeFとPhMgBrを基質とし、錯体Bの対カチオンに4分子のTHFを配位させたモデルによりそれぞれの遷移状態を求めた。各反応の反応障壁はそれぞれ78.5 (B→C), 65.8 (B→D) kJ/molと見積もられた。本反応系ではオルト位にメチル基を有するアリールグリニャール試薬を用いることによりその選択性は劇的に変化し、多成分反応生成物を選択的に与える。そこで、o-トリルおよび2,6-キシリルグリニャール試薬についても同様に検討を行った。その結果をTable 1に示す。オルト位の置換基により遷移状態のエネルギーはいずれも上昇するものの、クロスカップリング反応の遷移状態TS(B→D)はより大きく影響を受け、多成分反応に対して不利となった。この結果は実験結果を支持するものである。さらに、反応の選択性に対する電子効果についても併せて検討を行った。
Table 1. Calculated Energy Barriers in kJ/mol
ArMgBr TS (B→C) TS (B→D)
PhMgBr 78.5 65.8
o-TolMgBr 97.0 116.3
XylylMgBr 97.3 134.2
4.その他・特記事項(Others)
本研究の理論計算は、自然科学研究機構分子科学研究所計算科学研究センター江原正博教授ならびにTao Yang博士との共同研究として実施した。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T. Iwasaki, X. Min, A. Fukuoka, H Kuniyasu, N Kambe, Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 5550.
(2) T. Iwasaki, A. Fukuoka, X. Min, W. Yokoyama, H Kuniyasu, N Kambe, Org. Lett. 2016, 18, 4868.