利用報告書
課題番号 :S-17-MS-2020
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :アポトーシス過程におけるクロマチン凝集に伴うリン酸化過程の可視化
Program Title (English) :Visualization of phosphorylation process accompanying chromatin aggregation
in apoptotic process
利用者名(日本語) :江島丈雄1), 刀祢重信2), 大東琢治3), 加道雅孝4)
Username (English) :T. Ejima1), S. Tone2), T. Ohigashi3), M. Kado4)
所属名(日本語) :1) 東北大学多元物質科学研究所, 2)東京電機大学理工学部, 3)自然科学研究機構分子科学研究所, 4)量子科学研究開発機構量子ビーム科学研究部門
Affiliation (English) :1) IMRAM, Tohoku University, 2) Sch. Sci. & Tech., Tokyo Denki University, 3) IMS, NINIS, 4) Quan. Beam Sci. Res. Derec., QST
1.概要(Summary )
細胞のプログラム死であるアポトーシスは不要となった細胞成分の再利用のための重要な生理機能の一つで、細胞核内のクロマチン凝縮を特徴としている。単離した細胞核においては、通常の細胞核を段階0として、段階1:環状凝縮、段階2:ネックレス様凝縮、段階3:細胞核崩壊/分解の3つの段階を経て、クロマチン凝縮過程が起こる。このうち段階1から段階2へ移行はDNAのホスホジエステル結合を切断する酵素であるDNaseを追加することにより、DNAが切断される事により起こる。このような凝縮過程はアポトーシスだけに見られる過程ではなく、その他のプロセスにおいても観測される。例えば有糸分裂前期および前中期においては、クロマチンが凝縮し、核膜消失を経て細胞が分裂する。このプロセスは(結果として形成される形状は異なるが、)クロマチンの凝縮と核膜消失という点ではアポトーシスとよく似たプロセスを経ており、この類似性はクロマチンの変化が細胞分裂とアポトーシスにおいて共通な機構により起こっていることを想起させる。従ってアポトーシス過程におけるクロマチン凝縮過程について明らかにすることは、クロマチンの動的構造変化に対する知見につながる。
この目的に対し、第一段階から第2段階に至る過程がリン酸基の切断を伴うことから、本研究ではこのリン酸基の化学結合状態の変化に注目し、その変化がP-L2,3吸収端近傍において観測できるかどうかを確認することとした。化学結合状態の変化が観測できれば、その結合エネルギーを用いて可視化することで、細胞内のDNAの変化が可視化できることになる。これが実証されれば、アポトーシス細胞核のみならず、クロマチン凝集を伴う核分裂の可視化を行うことが可能となる事が予想される。
2.実験(Experimental)
プラスミドDNAのリン酸基の化学結合状態の違いをⅩ線吸収分光により調べた。試料は蒸留水にpBlueScript KS+を希釈し、EcoRIを用いてリン酸基を切断した。希釈試料と、EcoRIを加えた試料をそれぞれSiNメンブレン上に5µL垂らしそのまま風乾した。P-L2,3 吸収端近傍におけるⅩ線吸収測定は、UVSOR BL4Uに付設されている走査型軟X線顕微鏡を用いてエネルギー分解能E/δE=1000、空間分解能50nmとした。風乾により試料はプラスミドが凝集した微小試料とそれ以外の部分に分かれ、プラスミド部分とⅩ線の透過部分を同時測定しながら、波長掃引をおこなった。試料部分の透過光強度をそれ以外の透過光強度で規格化し透過率を求めた後、吸収率とした。
3.結果と考察(Results and Discussion)
得られた吸収スペクトルを図1に示す。得られたスペクトル形状はバックグランドを含めて互いに似通っており、同時に測定したAMP、cAMP等から得られた吸収スペクトル形状を参考にスペクトル構造のピーク分離を試みた結果、スペクトル構造は6つのピーク構造(図中、A~F)に分離すると全体をよく説明できることが明らかとなった。ピーク分離により得られたピーク強度を比較した結果、リン酸基の切断の有無によりピークDの強度が著しく異なり、その他の構造はほぼ似通った強度を示した。KH2PO4におけるP-L2,3吸収測定の結果から、ピークA、BはP3s+O2p、ピークC、DはP3p+O2p、E、FはP3d+O2pに由来する構造と考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
[1] T. Ejima, M. Kado, M. Aoyama, K. Yasuda, and S. Tamotsu, “Organelle Distribution in a Hydrated Bio-cell by Correlation between Soft X-ray and Fluorescence Images”, J. Phys.: Conf. Series 849 (2017) 012009.
[2] Ito, N., Tone, S. and Tanaka, M., “C-terminal 15kDa fragment from β-actin causes apoptotic cell death”, Annual Meeting 2017 of American Society for Biochemistry and Molecular Biology (ASBMB2017). Apr. 24-28, 2017, MaCormick Place Convention Center, Chicago, U. S. A.
[3] 伊東奈那子、刀祢重信、田中眞人「βアクチンのC末端側断片は細胞死を誘起する」, 第26回日本Cell Death 学会学術集会、2017年7月24日―25日、東京、太田産業プラザPiO
[4]伊東奈那子、本多弘幸、刀祢重信、田中眞人,「プロフィリンはβ-アクチンの15kDa-C末端側断片が引き起こす細胞死を抑制する」, 第26回日本Cell Death 学会学術集会、2017年7月24日―25日、東京、太田産業プラザPiO
6.関連特許(Patent)
なし