利用報告書

イカ墨色素ナノ粒子の電子状態に関する基礎研究
松浦俊彦
北海道教育大学函館校 生物工学研究室

課題番号 :S-18-JI-0029
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :イカ墨色素ナノ粒子の電子状態に関する基礎研究
Program Title (English) :Study on electronic state of Sepia ink nanoparticles
利用者名(日本語) :松浦俊彦
Username (English) :T. Matsuura
所属名(日本語) :北海道教育大学函館校 生物工学研究室
Affiliation (English) :Laboratory of Biotechnology & Bioengineering, Hokkaido University of Education

1.概要(Summary)
イカの墨袋から高純度に精製したイカ墨色素ナノ粒子は耐熱性と耐光性に優れた天然色素である。イカ墨色素ナノ粒子は天然ユーメラニンから構成されているため、紫外線から可視光領域にわたり光を幅広く吸収する。こうした性質に着目し、我々のグループはイカ墨色素ナノ粒子を色素増感太陽電池の増感色素に応用する研究を行っている。しかし、構造が複雑なイカ墨色素ナノ粒子の電子状態を正確に把握していなかった。本研究では、イカ墨色素ナノ粒子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を測定し、電子状態を明らかにすることを目的とした。コウイカ由来のイカ墨色素ナノ粒子の粉末を測定した結果、HOMOが5.7 eVで、LUMOが4.7 eVであることがわかり、そのエネルギーギャップは1.0 eVと求められた。

2.実験(Experimental)
水に懸濁されたイカ墨色素ナノ粒子を粉末化した試料を準備した。イカ墨色素ナノ粒子の電子状態を分光学的手法で測定できるかについて、光電子分光装置(理研計器製 UPS AC-2)を用いて確かめた。HOMOおよびLUMOの測定には正・逆光電子分光装置(テックサイエンス PYS-200+IPES)を用いた。また、X線光電子分光装置・XPS(島津クレートス社製 AXIS-ULTRA DLD)により、組成分析を行った。Ag板を標準試料とし、フェルミ端を求め、その値を用いてイカ墨色素ナノ粒子のエネルギー位置を補正し、真空準位基準での正逆光電子スペクトルを作成した。イカ墨色素ナノ粒子を薄膜にするのが厳しかったため、粉末の状態ですべての測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
精製したイカ墨色素ナノ粒子は水に分散させた懸濁液の状態であり、冷凍保存などできない。コウイカから精製された場合、平均粒子径は約200 nmである。ゼータ電位は約-50 mVであるので、懸濁濃度を高くしてもサラサラした液体に感じる。本研究では、イカ墨色素ナノ粒子を真空中で分光測定する必要があるため、イカ墨色素ナノ粒子を粉末化することを試みた。粉末化させたイカ墨色素ナノ粒子を真空装置内に入れて、分光測定を行った結果、測定可能な粉末状態を準備できたことを確認した。しかし、イカ墨色素ナノ粒子を薄膜にするのは厳しかった。
コウイカ由来のイカ墨色素ナノ粒子の粉末試料を測定した結果、HOMOが5.7 eVで、LUMOが4.7 eVであることがわかり、そのエネルギーギャップは1.0 eVと求められた。イカ墨色素ナノ粒子の電子状態を明らかにすることができた。この成果はイカ墨色素ナノ粒子と光電極の最適な組み合わせを理論的に予想することにつながり、色素増感太陽電池の研究を進展させることができる。また、そもそもイカ墨が黒い理由を説明することにも役立つため、天然有機黒色色素の理解を深めることが期待できる。

4.その他・特記事項(Others)
JAISTのスタッフの皆様には、イカ墨色素ナノ粒子の薄膜化など、まだ確立していない難しい試料調整に挑戦していただいた。心より感謝申し上げる。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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