利用報告書

カーボンナノチューブのカイラリティ同定
能澤克弥
パナソニック株式会社 先端研究本部

課題番号 :S-16-JI-0037
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :カーボンナノチューブのカイラリティ同定
Program Title (English) :Identification of chirality of single wall cabonnanotubes
利用者名(日本語) :能澤克弥
Username (English) :K. Nozawa
所属名(日本語) :パナソニック株式会社 先端研究本部
Affiliation (English) :Advanced Research Division, Panasonic Corporation

1.概要(Summary )
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の物性は、カイラリティとよばれる構造指数により大きく異なる。そのためサンプル中のSWCNTのカイラリティ同定は重要である。SWCNTのラマン散乱分光測定は、①カイラリティで定まる共鳴波長近傍で励起された場合のみラマン散乱が観測されること、②ラマン散乱の内RBM(Radial Breathing Mode)ピーク位置はカイラリティで定まる直径に依存すること、の2点からカイラリティ同定に有効である。
しかし波長および波数領域によっては、よく似た共鳴波長とRBMピーク位置を持つカイラリティのSWCNTが存在する。そのため、複数のカイラリティが混在したサンプルにおいては、RBM散乱が重なり合い、分離・同定が難しいという課題があった。
今回、SWCNTのラマン共鳴条件が、そのカイラリティに依存し、かつストークス線とアンチストークス線で異なること[1]を利用し、カーボンナノチューブのカイラリティ同定を行った。なお、通常のラマン散乱分光装置ではアンチストークス線の測定は不可能である。北陸先端大所有装置は、今回の測定が可能な数少ない装置の一つである。
2.実験(Experimental)
カイラリティ含有比率の異なる複数のカーボンナノチューブサンプルを単結晶シリコン基板に塗布したサンプルを準備した。
これらサンプルを、北陸先端大のラマン散乱分析装置(HORIBA-JY T64000)を用いストークス線およびアンチストークス線の測定を行った。測定は、3種類のレーザー波長により実施した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に532nm励起での測定結果を示す。
少なくとも8種類のカイラリティのSWCNTからのラマン散乱のRBMピークが観測されており、ストークス線とアンチストークス線の強度比がカイラリティにより異なることが確認できた。ストークス線とアンチストークス線の共鳴条件が同一であれば、これらの比は温度のみの関数となり、高波数ほどアンチストークス線の強度が低下するはずである。これに対し、例えばNo.3,4 のピークは、高波数であるNo.6,7に比べて明らかにアンチストークス線の強度が減衰している。これは、この二つのカイラリティが、励起波長532nmよりも長い共鳴波長を持つことを意味しており[1]、カイラリティ(13,4)および(10,7)のSWCNTの散乱と同定できた。

図1.532nm励起におけるRBM測定例

4.その他・特記事項(Others)
本実験を行うにあたり、北陸先端大学 小矢野教授にご指導、ご助言を頂戴いたしました。感謝いたします。
[1] A.G.SOUZA FILHO et al., Phys. Rev. B 63 241404
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 林田寿徳,松川望,能澤克弥,原田充、応用物理学会第64回春季学術講演会、『カーボンナノチューブ凝集膜の光学特性』平成29年3月15日

6.関連特許(Patent)
なし。

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