利用報告書
課題番号 :S-20-NM-0052
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :グラフェンへの欠陥・格子ひずみ導入に関する研究
Program Title (English) :Raman spectroscopy of graphene with defects and lattice strain
利用者名(日本語) :友利ひかり
Username (English) :H. Tomori
所属名(日本語) :筑波大学数理物質化学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba
1.概要(Summary )
グラフェンは、炭素原子が蜂の巣状に並んだ2次元結晶であり、原子1層分の厚みを持つ。また、シリコンを遥かに凌ぐ電界効果移動度を示すことから次世代のエレクトロニクス材料として期待されている。このグラフェンの品質の評価には顕微ラマン分光がよく用いられており、グラファイト系材料に特徴的なGバンドと2Dバンドから結晶性・ひずみ量・電荷のドーピング量を、欠陥に起因して生じるDバンドの強度から欠陥量を推測することができる。
本研究グループが行った先行研究において、電子線を照射されたグラフェンのDバンドとGバンドの強度比ID/IGは、ラマン分光測定時のレーザー照射の繰り返しや真空中・300℃で12時間加熱(アニール)によって減少することがわかっている。ID/IGの変化の仕方はレーザー照射かアニールかによって違いが見られるが、その詳細は明らかになっていない。そこで本研究では電子線照射によって欠陥を与えられたグラフェンに対し、ラマンレーザー照射やアニールを行うことで起きる変化をラマンスペクトルの詳細な解析によって明らかにすることを目的として実験を行った。
2.実験(Experimental)
利用装置:高速レーザーラマン顕微鏡
実験方法:Si基板上のグラフェンに5分間隔でラマンマッピングを繰り返した。また、この試料に300℃で1時間真空アニールを行い、その前後のラマンスペクトルを測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
電子線照射によってグラフェンに生じた欠陥は、ラマンレーザー照射によっても、アニールによっても減少するが、その詳細は大きく異なることがわかった。図(a)にラマンレーザー照射の繰り返しによる2DバンドとGバンドの位置の変化を、図(b)にアニールによる2DバンドとGバンドの位置の変化をそれぞれ示す。図(a)から、電子線照射によってグラフェンに引張ひずみが導入されること、ラマンマッピングの繰り返しによって結晶中のホールドープが緩和されることがわかる。その一方で、図(b)からは、アニールによって結晶のひずみが緩和されるが、ホールドープ量はほとんど変化しないことがわかる。また、先行研究との比較から、アニール処理後のグラフェンは結晶の一部がアモルファスカーボン化していることが推察される。以上より、ラマンレーザー照射は荷電不純物を取り除く効果がある一方で、アニールはひずみを緩和する効果があることがわかった。
4.その他・特記事項(Others)
NIMS竹村氏の支援を受けた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。