利用報告書

スピン化学種を有するフラーレン誘導体の磁気的性質の検討
井手 雄紀1), 長谷川 翔大1)
1) 京都大学化学研究所

課題番号 :S-18-MS-1078
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :スピン化学種を有するフラーレン誘導体の磁気的性質の検討
Program Title (English) :Study of Magnetic Properties for Fullerene Derivatives with Spin Species
利用者名(日本語) :井手 雄紀1), 長谷川 翔大1)
Username (English) :Y. Ide1), S. Hasegawa1)
所属名(日本語) :1) 京都大学化学研究所
Affiliation (English) :1) Institute Chemical Reserch, Kyoto University

1.概要(Summary )
三次元的な骨格・π共役系を有するフラーレン誘導体は、これまでに色素増感太陽電池や触媒、生体イメージングなどへの様々な応用が検討されている。外部との影響が少ないフラーレン誘導体内部に常磁性を示す金属イオンなどのスピン化学種が存在した場合、構造および電子状態に対する影響の検討は、非常に興味深い研究である。これまでに希土類イオンを内包したフラーレン誘導体の合成は、アーク放電法およびイオンビーム照射法などの物理的手法が一般的に用いられてきた1)。しかし、極めて低い収率および内包化学種の選択性などのデメリットが存在している。そこで、当研究室では有機合成的手法を用いることで、フラーレン分子に開口部を持たせ、再び閉じることが可能な分子手術法を確立している2)。分子手術法を用いることで、フラーレン分子の内部に様々な分子を挿入できることを報告している。
本研究では、巨大な開口部を有するフラーレン誘導体に対してスピン化学種の挿入を試み、得られたフラーレン誘導体の磁気的特性の評価・検討を行い、これまで十分な検討がされていなかった三次元的なπ共役系化合物の電子状態を明らかにする。フラーレン誘導体内部への挿入を達成するために、開口部の大きさの制御を試みた。その結果、常磁性分子であるNO(一酸化窒素)を内包したフラーレン誘導体の合成に成功した。得られたNO分子内包フラーレン誘導体の磁気的性質を検討するために、極低温を含む幅広い温度領域におけるSQUID測定を行った。

2.実験(Experimental)
SQUID測定: 粉末状態のNO分子を内包したフラーレン誘導体を分子科学研究所内の機器センター設備であるSQUID型磁化測定装置 Quantum Design MPMS-XL7およびMPMS-7で2-300Kの温度範囲、5000 OeでDCスキャンモードにて測定を行い、磁化率の算出を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
NO分子内包フラーレン誘導体の粉末状態におけるSQUID測定により、2-300 Kでの磁化率および有効磁気モーメントの温度依存性プロットが得られた。極低温領域では約0.1emuKmol-1の磁化率を示した。一方で、100K以上の温度領域では、温度上昇に伴って磁化率の減少が確認された。この挙動はNO分子の軌道角運動量による影響であると考えられる。フラーレン内部に存在するNO分子は、室温付近では自由回転していることが量子化学計算により明らかにされている。したがって、温度低下に伴って回転が制限され、対称性の低下により磁化率の上昇が起こっていると考えられる。

4.その他・特記事項(Others)
1) A. A. Popov, S. Yang and L. Dunsch, Chem. Rev., Vol. 113(2013) p.p.5989—6113.
2) K. Kurotobi and Y. Murata, Science, Vol. 333(2011) p.p.613—616.

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) S. Hasegawa, Y. Hashikawa, T. Kato and Y. Murata, Angew. Chem. Int. Ed., Vol. 57(2018)p.p.12804-12808.
(2) S. Hasegawa, Y. Hashikawa, T. Kato and Y. Murata, 日本化学会第99春季年会2019, 平成31年3月16日.

6.関連特許(Patent)
なし。

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