利用報告書

スポーツ関連性enthesopathyの発症に寄与する因子の解明
小曽根 海知 1)

課題番号                :S-20-NM-0020

利用形態                :技術補助

利用課題名(日本語)    :スポーツ関連性enthesopathyの発症に寄与する因子の解明

Program Title (English) :Elucidation of factors contributing to the onset of sports-related enthesopathy

利用者名(日本語)      :小曽根 海知 1)

Username (English)     :Kaichi Ozone1)

所属名(日本語)        :1)埼玉県立大学大学院 博士後期課程

Affiliation (English)  :1) Graduate School of Saitama Prefectural University, Doctoral Program

 

 

  • 概要(Summary )

スポーツ障害の一つであるEnthesopathyの発症要因はこれまでOveruseが主要因であると認識されてきた。しかし筆者らは、臨床上運動量の少ないアスリートでも同様の障害を呈することから、運動量ではなく筋収縮形態が関与していることを仮説立て研究を行ってきた。これまでの結果より、Enthesopathy様の病理学的変化を引き起こす要因には遠心性収縮が関与していることが明らかとなってきた。しかしこれまではその現象にのみ着目をしてきたため、遠心性収縮活動によってどの様なタンパク質の変動が生じるかは理解されていなかった。

そのため本研究課題ではスポーツ関連性Enthesopathyの発症に寄与するタンパク質の変動を明らかにするため、液体クロマトグラフィー質量分析法を用いることで網羅的に解析を行い、その後Ingenuity Pathway Analysis (IPA, Qiagen) を用いることでUpregulateされた因子の予測を行った。

 

2.実験(Experimental)

【利用した主な装置】

【実験方法】

ICRマウス24匹を以下の4群に分別し運動介入を実施した; 1:Control群、2:Overuse群、3:Misuse群、4:Misuse+Overuse群。3・4群は遠心性収縮を模倣するために運動条件を下り坂に設定した。2週間の運動介入終了後マウス肩関節複合体を採取した。組織採取後固定処理を実施し、その後10%2週間の脱灰処理を実施した。パラフィン包埋し10µ切片をDirector Slide (AMR)に貼り付け、Toluidine-blue染色にて線維軟骨層を標識化した。標識された切片をLMD7000 (Leica Microsystems)に装着し顕微鏡下でEnthesis領域を観察。その後同部をPC上で選択し採取した。各サンプルはQproteome FFPE Tissue Kit (QIAGEN) を使用してタンパク質を抽出し、その後トリプシン処理を実施した。処理されたタンパク質は探索的液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC-MS/MS)によって網羅的に分析された。得られたスペクトルデータはMASCOTソフトウェア (version 2.5.1) を使用してSwiss-Protデータベースのマウス種に対して取得された。得られたデータからペプチドグループのタンパク質存在量を半定量値として定義し、log2変換した値をそれぞれ比較した。その後得られたデータからIPAのCausal Network Analysisを用いることで活性化を引き起こしていたと予測される因子の解析を行った。

 

3.結果と考察(Results and Discussion)

Control群内で共通して発現していたタンパク質は118個であり、Overuse群内で共通して発現していたタンパク質は101個であった。またMisuse群内で共通して発現していたタンパク質は219個であり、Overuse群内で共通して発現していたタンパク質は181個であった。これらの群内共通発現因子をさらに群間で比較を行った結果、全ての群で共通発現した因子は74個であった(Figure1)。IPAにて活性化の予測がされた因子は、Controlと比較してOveruse群で1因子、Misuse群で44因子、Misuse+Overuse群で58因子であった。またOveruse群と比較してMisuse群で31因子、Misuse+Overuse 群で57因子であった。   Figure 1. Venn diagram for intergroup comparison

さらにMisuse群と比較するとMisuse+Overuse群で49因子であった。Control群とOveruse群間ではCSF2のみの活性化が予測されたが、その他の群間では活性化が予測された因子は上位15因子の内TGF-βのシグナル伝達に関与する因子の発現が多く予測された(Table 1)。

 

Table 1. Prediction of activation in the Misuse compared to Overuse group

 

本研究にてEnthesopathy様の病理学的変化にはTGF-bシグナル伝達が関与している可能性が示唆された。過去の先行研究にて遠心性収縮活動では筋腱組織にてTGF-bが増加することが確認されている(K.M.Heinemeier et al. 2007)。また生体内にTGF-bを過剰発現させるための注射を用いた研究ではEnthesopathy様の骨極形成を引き起こした研究も報告されている(X.Wang et al. 2018)。しかしこれまでの研究では本研究の様に遠心性収縮活動にて筋腱だけでなくEnthesisでもTGF-bの過剰発現が生じている可能性を示唆した研究は報告されていない。そのため本研究はEnthesopathy発症メカニズムの解明を補助する新たなデータとなりえた。本研究結果は現状活性化の予測がされた段階ではあるため、今後は免疫組織化学染色や遺伝子の変動を確認する必要性はあるものの、新規性のある結果がえられた。

 

4.その他・特記事項(Others)

本実験の遂行にあたり、技術指導等お力添え頂きました箕輪貴司様、李香蘭様、服部晋也様に心から御礼申し上げます。本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費によって遂行されました。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)

(1) Kaichi Ozone, Yuki Minegishi, Takanori Kokubun, Haruna Takahashi, Moe Yoneno, Kei Takahata1, Kohei Arakawa, Naohiko Kanemura.Proteomic analysis of sports-related enthesopathy onset factors. Orthopaedic Research Society Annual Meeting, 2021. February 16.

 

6.関連特許(Patent)

なし。

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