利用報告書

セラミックスへの通電処理による結晶構造変化の探索
増田紘士

課題番号                  :S-20-NM-0058

利用形態                  :機器利用

利用課題名(日本語)       :セラミックスへの通電処理による結晶構造変化の探索

Program Title (English)         :Experiments on structural change in electrically processed ceramics

利用者名(日本語)      :増田紘士1)

Username (English)            :H. Masuda1)

所属名(日本語)        :1) 東京大学大学院工学系研究科

Affiliation (English)           :1) Department of Materials Engineering, The University of Tokyo

 

 

1.概要(Summary

セラミックスに外部からの通電を行うことで,焼結・塑性流動などの高温現象が促進されることが知られている。この原因として,通電時のジュール加熱による試料温度上昇と,非平衡な結晶欠陥の導入によるイオン拡散の促進が複合的に生じていることが予想されている。本実験の目的は,通電処理を行った酸化物セラミックスに対して,結晶欠陥の密度増加に由来する構造変化がマイクロメートルからサブミリメートルオーダーで不均一に生じた状態を想定し,構造変化度の分布をレーザーラマン顕微鏡マッピングによって探索することである。

 

2.実験(Experimental

本課題では,高速レーザーラマン顕微鏡(ナノフォトン社製RAMANplus)による計測実験を行った。

下記の3種類の8 mol%イットリア安定化ジルコニア (8YSZ) サンプルを(A)~(C)を準備した。(A)は1250°Cでの焼結まま試料,(B)は焼結後1700°Cで熱処理を行った試料,(C)は(A)に対して炉内温度600°C,電流密度500 mA/mm2での通電処理を行った試料である。これらのサンプル表面を鏡面研磨し,レーザー波長532 nm,測定範囲18.3~1314.9 cm-1の範囲において,ラマン分光分析を行った。スペクトルに対する結晶方位の影響を抑えるため,X-Yマッピングモードで100点以上の測定を行い,これらのデータを平均化することでラマンスペクトルを得た。

 

3.結果と考察(Results and Discussion

図1に,試料(A)および(C)から得られたラマンスペクトルを示す。焼結ままの試料(A)で見られる,152, 257, 318 cm-1付近で見られる正方晶性Zr-O結合に由来するピークが,通電処理を施した試料(C)では鈍化した。また,試料(C)のスペクトルは,立方晶単相領域で熱処理を施した試料(B)のスペクトルと一致していた。

従って,通電処理によって試料温度が8YSZの立方晶単相領域まで上昇し,それに伴うZr-O結合特性に変化が生じたと言える。一方,マッピングモードでの構造変化分布は検出されなかった。

 

図1 試料(A),(C)におけるラマンスペクトルの比較。

 

4.その他・特記事項(Others

本研究は,科研費(20K15018)の支援を受けて行われました。ここに謝意を表します。

NIMS分子・物質合成プラットフォームの服部晋也氏、李香蘭氏、小原里美氏の支援を受けた。

 

5.論文・学会発表(Publication/Presentation

なし。

 

6.関連特許(Patent

なし。

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