利用報告書
課題番号(Application Number):S-17-NR-0039
利用形態(Type of Service):技術代行
利用課題名(日本語) :タンパク質の結晶化における非結晶粒子の役割
Program Title (English) :Role of amorphous particles in protein crystallization
利用者名(日本語) :山﨑智也, 木村勇気
Username (English) :T. Yamazaki, Y. Kimura
所属名(日本語) :北海道大学低温科学研究所
Affiliation (English) :Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
検索キーワード :分野(バイオ・医療、材料)
材料(有機・高分子、バイオ、)
1.概要(Summary )
タンパク質の機能を理解するうえで重要な分子の詳細な立体構造は、タンパク質の結晶とX線などを用いた構造解析で明らかにされる。しかし、タンパク質を結晶化することは非常に困難であり、立体構造解析におけるボトルネックとなっている。この問題は、結晶化において熱力学的に安定なサイズの結晶の核ができるまでの過程(核生成)が未だに良く分かっていないことが一因である。これに対し、我々はナノメートルの領域で生じる核生成の過程を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することから明らかにしようと試みている。近年、液体セル、及び、クライオシステムを用いたTEM観察で、リゾチームタンパク質の結晶ができる瞬間を“その場”観察することに成功し、その結晶の核生成には、2種類の非結晶粒子(結晶生成の下地となるもの、結晶核を生成するもの)が関わっていることが分かった(T. Yamazaki et al., PNAS 114, 2154, 2017.)。本研究では、この成果をさらに発展させるべく、リゾチーム結晶の核を生成する非結晶粒子の詳細な観察を試みた。また、フェリチンタンパク質は鉄酸化物の粒子を内包しているため、TEM像でコントラストを得やすくなる。このことから1分子単位での解析が期待できるため、フェリチンタンパク質の結晶化過程についても観察を行った。
2.実験(Experimental)
タンパク質の試料として鶏卵白由来のリゾチームと馬脾臓由来のフェリチンを用いた。結晶化剤として、リゾチームには塩化ナトリウム、フェリチンには硫酸亜鉛を使用した。各タンパク質の結晶化溶液を準備し、TEMグリッド上に添付してクライオスタットにて結晶化溶液の凍結試料を作製した。作製した試料は日本電子社製透過型電子顕微鏡JEM-3100FEF(加速電圧300 kV)で観察を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
リゾチームの結晶化溶液の観察では、前回の実験と比べて多数の粒子が観察された。これらの粒子は円形であり、サイズは数十~数百nmで分布していた。電子回折スポットを示す粒子もあり、その像を取得、解析したところ、氷のIh、もしくは、Ic相が生成していることが分かった。このような粒子はアーティファクトとして生成したものと考えられる。観察対象となるリゾチーム由来の非結晶粒子のサイズはこれらの粒子と同等であり、両者を区別することは不可能であった。一方で、リゾチームの電子ビームによる損傷を観察することで、リゾチーム分子の溶液中の分布を観察できた。その結果、溶液中にはリゾチーム分子が不均質に濃集している箇所があることが分かった。濃集している箇所の形はこれまで観察されているアモルファス粒子の球形とは異なり、不均一であった。このような溶液中の構造と結晶核の生成との関連はこれまであまり考えられておらず、今後着目すべき点であると考えられる。
また、フェリチンにおいては、内包する鉄酸化物が可視化できたため、これをマーカーとして1分子単位での観察、解析が可能であった。このため、分子の配列を直接見ることから、規則配列せずに凝集したアモルファス粒子、規則配列した結晶を判別することに成功した。フェリチン結晶の分子配列を解析したところ、その分子間の距離は(111)面における分子間の距離とほぼ一致した。このことから、従来困難であった結晶核のサイズ(分子の個数)が直接測定できる可能性がある。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム平成29年度研究設備の試行的利用Type2(NPS17034)の支援により行われた。本研究は、藤原技術員、大野技術員に技術代行(クライオTEM観察、及び、クライオスタットによる試料作製)の支援を頂いた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 木村勇気. 第40回結晶成長討論会. 2017年9月1日.
(2) Y. Kimura, T. Yamazaki. 13th Multinational Congres on Microscopy. Sep. 25, 2017.
(3) Y. Kimura, T. Yamazaki. Mathematical Aspects of Surface and Interface Dynamics 14. Oct. 26, 2017.
(4) 山﨑智也, 木村勇気. 第46回結晶成長国内会議(JCCG-46). 2017年11月29日.
(5) 山﨑智也, 木村勇気, Alexander E. S. Van Driessche. 結晶表面・界面での成長素過程のその場観察と理論, 2018年1月26日.
6.関連特許(Patent)
なし。