利用報告書
課題番号(Application Number):S-16-NR-0038
利用形態(Type of Service):技術代行
利用課題名(日本語) :タンパク質結晶の核生成経路に関わるクラスターの直接観察
Program Title (English) :Direct observation of protein clusters in crystal nucleation pathways
利用者名(日本語) :山﨑智也, 木村勇気
Username (English) :T. Yamazaki, Y. Kimura
所属名(日本語) :北海道大学低温科学研究所
Affiliation (English) :Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
1.概要(Summary)
タンパク質の結晶は、X線などを用いたタンパク質分子の立体構造解析に用いられる。しかしながら、タンパク質を結晶化することは非常に困難であり、目的のタンパク質結晶が得られないことがしばしばある。これは、結晶化において熱力学的に安定なサイズの結晶の核ができるまでの過程(核生成)が、未だに良く分かっていないためである。申請者らはこの問題に対し、特に液体中を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する技術を用い、結晶のできる瞬間をナノのスケールで直接観察することから明らかにしようと試みている。最近の成果では、タンパク質結晶の核生成には、2種類のクラスター(非結晶粒子)が関わっていることが分かってきた。本研究では、これまで申請者らが行ってきたタンパク質の結晶化“その場”観察による動的な観察結果をより詳細に検討するため、クライオTEMを用いたタンパク質結晶化溶液中の直接観察を行った。
2.実験(Experimental)
タンパク質の試料として鶏卵白リゾチームを用いた。観察するリゾチームの結晶化溶液の組成は、15, 50 mg/mLリゾチーム、50 mg/mL 塩化ナトリウム、50 mM 酢酸バッファー(pH 4.5)、となるように調整した。従来の観察と同様に、クラスターの有無を比較するため、結晶化溶液をポアサイズが0.2 μmのフィルターに通し、溶液中のクラスターを除去した溶液も作製した。作製したリゾチーム結晶化溶液をTEMグリッド上に添付し、クライオスタットを用いて-170 °C以下でクライオ処理を行った。作製したグリッドサンプルは-170 °C以下で保ったまま加速電圧200 kVの電界放出形透過型電子顕微鏡(JEM-2200FS)を用いて観察した。観察では明視野像と電子回折パターンを取得した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
本観察では、これまで申請者らが行った観察と同様に、斜方晶と正方晶のリゾチーム結晶が観察された。また、直径が約200 nmで球状のアモルファス粒子が観察された。このアモルファス粒子のサイズは動的光散乱法による粒子径測定の結果と整合し、形状は液体中のTEM観察と整合する。また、フィルターを通した溶液中では観察されなかったことも他の手法による結果と整合する。以上より今回観察されたアモルファス粒子は、これまで観察されてきたアモルファス粒子と同一であると判断した。また直径約100 nmで球状の粒子中に、平坦な面を持つコントラストの強い粒子が観察された。電子回折でラウエ斑点が観察されたことから、結晶であることが分かった。従来の観察と対比すると、これは上記のアモルファス粒子とは異なる性状を持つ非結晶粒子中に結晶が晶出している様子を捉えたものと考えられる。この観察により、タンパク質結晶の核生成は非結晶粒子中で生じるという描像の直接的な証拠を得ることに成功した。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は、科研費(基盤S、15H05731)、笹川科学研究助成(28-232)の支援により行われた。本研究は藤田咲子技術員にサンプルのクライオ処理、クライオTEM観察の技術支援を頂いた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
[論文]
(1) T. Yamazaki, Y. Kimura, P. G. Vekilov, E. Furukawa, M. Shirai, H. Matsumoto, A. E. S. Van Driessche, K. Tsukamoto (2017) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 114 (9), 2154-2159.
[学会発表]
(1) 山﨑智也, 木村勇気 (2017) 「結晶から見る地球科学~新鉱物の発見、人工結晶から初期生命まで~」, 3月7日, 北海道大学(北海道).
6.関連特許(Patent)
なし。







