利用報告書
課題番号 :S-15-KU-0053
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :ナノカーボンのDNAによる可溶化と抗体複合体の合成
Program Title (English) :Preparation of DNA-treated CNT/antibody complex
利用者名(日本語) :川口 稔
Username (English) :M.Kwaguchi
所属名(日本語) :福岡歯科大学
Affiliation (English) :Fukuoka Dental College
1.概要(Summary )
非侵襲的なガンの近赤外光照射による温熱療法を目指し、近赤外光領域に特徴的な吸収を持つ単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いた機能性ナノ複合体の創生を目指している。第一に満たすべき重要なパラメータとして、SWNTが体内中で安定的に分散し、非特異吸着を生じない生体安定性を持つことが挙げられる。そこで九州大学 応用化学部門中嶋研究室藤ヶ谷准教授らにより開発された架橋高分子被覆法により被覆したSWNTを用い、抗体修飾を施した後に近赤外光温熱療法に用いる戦略を立てた。まず、poly(N-isopropylacrylamide)(PNIPAM)とPolyethyleneglycol methacrylateとを共重合した架橋高分子で被覆したSWNTの生体安定性をマウスを用いて行った。
2.実験(Experimental)
九州大学藤ヶ谷准教授のグループで合成した架橋高分子被覆SWNTにおいてフリーの架橋高分子が残存していないことを核磁気共鳴装置(NMR)(13-1 核磁気共鳴測定装置)により確認を行った。架橋高分子被覆SWNTをマウスに尾静脈投与し、所定の期間後において臓器を取り出し、水に浸漬することで血抜き処理を施し、細胞膜破砕バッファーにより破砕処理を行った。得られた試料に含まれるSWNTをラマン分光法(05-3 プローブ型顕微ラマン分光測定装置)を用いて定量化を試みた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
NMR測定の結果、毒性を示すことが危惧されている界面活性剤やNPAMモノマーに由来するピークは観察されず、複合体以外の化合物は除去されていることを確認した。
次に尾静脈投与後1週間の各臓器に対してラマン測定を行った。その結果、サンプリングを行った全ての部位(肝臓、脾臓、腎臓、肺、血管、尿)からSWNTに特徴的なGバンドは見られなかった。一方、投与2週間後のマウスからは、肝臓、脾臓からGバンドが見られた。腎臓においてもごく微弱なGバンドが確認された。肺や血管系に関してはシグナルは認められなかった。これらの結果から、まず臓器試料の調整法が正しく行われていたことが分かる。血抜きをしない場合は大きなバックグラウンドで定量が困難であったことと対照的である。1週間目と2週間目の違いについては、1週間目ではSWNTが血液循環内にいるため、臓器蓄積は見られないが、1週間以降には排泄のため臓器蓄積が見られるのではないかと考えられる。このことより、作製した架橋高分子被覆SWNTに1週間以内では非特異的な臓器蓄積は見られず、2週間以降において臓器集積が始まっていることが明らかとなった。また、14日間の実験期間中どの時期にも肺や血管系にGバンドが見られないことから、血液凝集などネガティブな生体内の影響がないことも同時に明らかとなった。
4.その他・特記事項(Others)
特になし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
第 67 回日本歯科理工学会学術講演会、森紘一郎(福歯大),川口 稔(福歯大),藤ヶ谷剛彦(九大院), 堤 優介(九大院), 池邉哲郎(福歯大)ガン免疫療法用温熱ナノデバイスの生体内動態。
6.関連特許(Patent)
特になし







