利用報告書

ナノカーボンのDNAによる可溶化と抗体複合体の合成
川口 稔
福岡歯科大学

課題番号 :S-16-KU-0025
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :ナノカーボンのDNAによる可溶化と抗体複合体の合成
Program Title (English) :Preparation of DNA-treated CNT/antibody complex
利用者名(日本語) :川口 稔
Username (English) :M. Kawaguchi
所属名(日本語) :福岡歯科大学
Affiliation (English) :Fukuoka Dental College

1.概要(Summary )
昨年度に引き続き、非侵襲的なガンの近赤外光照射による温熱療法を目指し、近赤外光領域に特徴的な吸収を持つ単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いた機能性ナノ複合体の創生を目指している。H27年度において、第一に満たすべき重要なパラメータである、SWNTが体内中で安定的に分散し、非特異吸着を生じない生体安定性を持つSWNT複合体の開発に成功した。今年度においては、開発したSWNT複合体をマクロファージに取り込ませ、光熱効果による殺傷ができることの確認を行った。

2.実験(Experimental)
九州大学応用化学部門藤ヶ谷准教授らにより開発された架橋高分子被覆法を用い、SWNTをpoly(N-isopropylacrylamide)(PNIPAM)とPolyethyleneglycol methacrylate (PEG-MA)とを共重合した架橋高分子で被覆したSWNT複合体を合成した。架橋高分子被覆SWNTをマウスに尾静脈投与し、所定の期間後において臓器を取り出し、水に浸漬することで血抜き処理を施し、細胞膜破砕バッファーにより破砕処理を行った。得られた試料に含まれるSWNTを九州大学ナノテクプラットフォーム装置であるプローブ型顕微ラマン分光測定装置を用いて定量化を試みた。

3.結果と考察(Results and Discussion)

図1.PNIPAMとPNIPAM/PEG-MA被覆CNTの生理食塩水への分散写真

PNIPAM/PEG-MA被覆CNTは、生理食塩水中において極めて高い分散安定性を示した(図1)。PEG-MAなしの被覆CNTでは凝集を生じたことからPEF-MAが聞いていることが明らかとなった。このPNIPAM/PEG-MA被覆CNTに対し、尾静脈投与後1週間の各臓器に対してラマン測定を行った。その結果、サンプリングを行った全ての部位(肝臓、脾臓、腎臓、肺、血管、尿)からSWNTに特徴的なGバンドは見られなかった。一方、投与2週間後のマウスからは、肝臓、脾臓おいてはごく微弱なGバンドが確認された。これらの結果から、まず臓器試料の調整法が正しく行われていたことが分かる。血抜きをしない場合は大きなバックグラウンドで定量が困難であったことと対照的である。
ラマン分光測定の結果、マクロファージ破砕液上澄みからCNT由来のGバンドが観察された。このことからPNIPAM/PEG-MAはマクロファージに取り込まれることが明らかとなった。

4.その他・特記事項(Others)
PNIPAM架橋被覆SWNTおよびPNIPAM/PEG-MA被覆の合成およびラマン測定はナノテクプラットフォームの柿田有理子氏に実施頂いた。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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