利用報告書

ハロゲン結合を活用する不斉求核触媒の高分子固定化
萬代大樹(岐阜医療科学大学薬学部薬学科)

課題番号 :S-20-MS-0018b
利用形態 :利用研究
利用課題名(日本語) :ハロゲン結合を活用する不斉求核触媒の高分子固定化
Program Title (English) :Immobilization of Chiral Nucleophilic Catalyst using Halogen-bonding
利用者名(日本語) :萬代大樹
Username (English) :Hiroki Mandai
所属名(日本語) :岐阜医療科学大学薬学部薬学科
Affiliation (English) :Department of Pharmacy, Faculty of Pharmacy, Gifu University of Medical Science

1.概要(Summary )
 不斉有機分子触媒の開発は、光学活性体の効率的な供給において極めて重要な研究課題である。申請者らは、独自のアプローチでキラルなN, N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)の創製に成功し、様々なアシル化反応に適用できることを明らかにしている(Mandai, H. et al., Nat. Commun. 2016, 7, 11297.)。一方、近年、環境調和の観点から、次世代環境調和型触媒反応システムとして、有機分子触媒の高分子固定化とその触媒反応システムの開発が注目されている。一般的な有機分子触媒の高分子固定化は、精緻に設計された触媒母骨格に共有結合を介して高分子担体を連結するため、担体の導入に伴い触媒活性が低下しやすい。この解決には、触媒母骨格に煩雑な分子修飾を施さなければならない。触媒活性を維持し、さらに、煩雑な合成を必要としない簡便な高分子固定化法が必要とされている。
 分子・物質合成プラットフォームの有機合成を担当する椴山グループでは、非共有結合性の相互作用である“ハロゲン結合”を求核触媒の高分子固定に活用する、新たな高分子マトリクスの開発に成功している。
 そこで本研究では、不斉求核触媒の開発に従事する申請者とハロゲン結合供与能を有する分子の精密合成を専門とする椴山儀恵准教授が、各々の研究成果を共有し、独自の視点でアイディアを提供することで、従来の固定化触媒における課題を解決することを目的として研究を行った。

2.実験(Experimental)
 申請者が開発したビナフチル骨格を有する不斉求核触媒を合成・提供するとともに、椴山グループで開発されたハロゲン結合供与部位を有する高分子マトリクスに固定化し、水中での触媒的不斉アシル基転移反応を検討した。機能性モノマーをはじめとする有機分子の純度の確認は、JEOL社JNM-ECS400およびデータ解析用ソフトウェアを用いた。また、不斉触媒反応により得られた生成物の光学純度は、JASCO社の高速液体クロマトグラフLC-2000 Plusシリーズおよびダイセル社のキラルカラムを用いた。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 反応は、まずまずの収率で進行し、中程度の不斉収率で転移生成物を与えた(77%収率、66% ee)。前期の研究期間中は、COVID-19の影響で十分に検討を実施できなかったが、得られた実験結果は、水系での触媒的不斉求核反応として世界で初めての例であり、中程度の不斉収率を獲得している点は、特に、注目に値する。後期の研究では、触媒量の低減を目指して検討を行った。不斉触媒化に先立ち、市販で容易に入手可能なDMAP触媒を用いて、初期検討を行った。その結果、5 mol%の触媒量では再現性よく転移生成物が得られたが、触媒量を1 mol%に低減すると転移反応に続き、加水分解反応も進行することがわかった。今後、高分子触媒の調製比を種々検討し、触媒量の低減を実現する。さらに、最適化した触媒調製比にもとづいて不斉触媒反応への展開を試みる。

4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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