利用報告書

バイオフィルムに対する高分子ナノ粒子の抗菌作用の微視的評価
高橋 知里1), 種村 眞幸2)
1) 愛知学院大学薬学部製剤学講座, 2) 名古屋工業大学大学院未来材料創生工学専攻

課題番号 :S-15-NI-33
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :バイオフィルムに対する高分子ナノ粒子の抗菌作用の微視的評価
Program Title (English) :Visualization of antibacterial activity of polymeric nanoparticles to biofilm
利用者名(日本語) :高橋 知里1), 種村 眞幸2)
Username (English) :C. Takahashi1), M. Tanemura2)
所属名(日本語) :1) 愛知学院大学薬学部製剤学講座, 2) 名古屋工業大学大学院未来材料創生工学専攻
Affiliation (English) :1) School of Pharmacy, Pharmaceutical Engineering, Aichi Gakuin University, 2) Department of Frontier Materials, Graduate School of Engineering, Nagoya Insitute of Technology

1.概要(Summary )
我々はこれまでに、ドラッグデリバリーシステム製剤として、高抗菌作用を保持する高分子ナノキャリアの作製およびその評価を試みてきた(1)。その中で、近年、医療現場で問題となっているバイオフィルム感染症に着目した。バイオフィルムは、生体内の臓器や、体内へ挿入・留置した医療器材などの異物表面に微生物が付着した場合に産生される。近年、カテーテルやペースメーカー、人工関節などが治療に大きく貢献しているが、バイオフィルム形成の温床となるなど、院内感染症の感染源の一つになっている。そこで、本実験では、バイオフィルム感染症治療のための高分子ナノ粒子製剤の作製法を最適化するため、バイオフィルムに対する抗菌作用の電子顕微鏡観察を行った。

2.実験(Experimental)
本実験では、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)をモデル菌としてバイオフィルム形成を行った。高分子ナノ粒子は、水中エマルション溶媒拡散法によりPLGAおよびSoluplus®を高分子基剤とし調製した。その粒子表面をキトサンや金属ナノ粒子で修飾し、抗菌剤にはクラリスロマイシンを用いた。物性評価として、動的光散乱式粒子径測定装置(ゼータサイザー)を用いた粒子径及びゼータ電位測定を行った。透過型電子顕微鏡(TEM)観察には、各ナノ粒子を投与したバイオフィルを試料に用いた。試料は、緩衝液で2時間処理した後、イオン液体を処理し、真空乾燥した。真空乾燥後、オスミウムコーティングしたものを観察に用いた。観察には、日本電子製のJEM-2100FとJEM-ARM200Fを用い、試料冷却ホルダーで試料を冷却しながら形態観察を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)

図1:クラリスロマイシン封入キトサン修飾PLGA粒子を投与したバイオフィルムのSTEM像(a)と超薄切片像(b)およびクラリスロマイシン封入キトサン修飾Soluplus®粒子を投与したバイオフィルムのSTEM像(c)と超薄切片像(d)

新手法を用いたSTEM観察の結果から、クラリスロマイシン封入キトサン修飾PLGA粒子とクラリスロマイシン封入キトサン修飾Soluplus®粒子では、抗菌作用が異なることがわかった(図1a,c)。特にSoluplus®粒子が付着した菌では、付着箇所を中心にえぐられたようなダメージが見られた。また、超薄切片法を用いた観察結果から、PLGA粒子は菌の細胞壁に付着し、抗菌活性をもたらしているのに対し(図1b)、Soluplus®粒子は細胞膜を通過し、菌の分裂を大きく阻害することで抗菌活性を発揮することがわかった(図1d)。試料作製の際のイオン液体処理と試料冷却による走査透過電子顕微鏡(STEM)観察の組み合わせにより、ダメージを受けやすい有機材料の観察が可能であることがわかった。本研究を通じ、定量的な抗菌活性評価と電子顕微鏡評価を基に、菌増殖を選択的に阻害するようなナノ粒子キャリアを設計することに成功した。これらの手法を用いることで、目的とするナノ粒子の設計が効率的に行えることが示唆された。

4.その他・特記事項(Others)
(1) C. Takahashi, S. Saito, A. Suda, N. Ogawa, Y. Kawashima, and H. Yamamoto (2015) Antibacterial activities of polymeric poly (DL-lactide-co-glycolide) nanoparticles and Soluplus® micelles against Staphylococcus epidermidis biofilm and their characterization. RSC adv. 5:71709-71717.

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
論文
(1) C. Takahashi, Y. Akachi, N. Ogawa, K. Moriguchi, T. Asaka, M. Tanemura, Y. Kawashima, and H. Yamamoto (2016) Morphological study of efficacy of clarithromycin-loaded nanocarriers for treatment of biofilm infection disease. Med. Mol. Morphol. in press.

学会発表
(1) C. Takahashi, N. Ogawa, T. Asaka, M. Tanemura, S. Muto, Y. Kawashima, and H. Yamamoto, 抗菌作用の微視的評価に基づくナノ粒子ドラッグデリバリーシステムの設計, 日本薬剤学会第30年会 (平成27年5月23日).
(2) C. Takahashi, Y. Akachi, S. Saito, A. Suda, N. Ogawa, M. Tanemura, S. Muto, Y. Kawashima, and H. Yamamoto, イオン液体を用いた電子顕微鏡観察評価に基づくDDS製剤設計, 医学生物学電子顕微鏡技術学会 (平成27年6月20日).
(3) C. Takahashi, Y. Akachi, S. Saito, A. Suda, N. Ogawa, M. Tanemura, S. Muto, Y. Kawashima, and H. Yamamoto, Formulation of polymeric poly (DL-lactide-co-glycolide) nanoparticles and Soluplus® micelles for biofilm infection disease based on visualization of their antibacterial activities, 2015 Microscopy Conference (平成27年9月6日-10日).
(4) C. Takahashi, Y. Akachi, S. Saito, A. Suda, N. Ogawa, T. Asaka, M. Tanemura, S. Muto, Y. Kawashima, and H. Yamamoto, Designing of polymeric nanocarriers against Staphylococcus epidermidis biofilm and their characterization, 2015 MRS Fall Meeting (平成27年12月3日).

6.関連特許(Patent)
なし

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