課題番号 ：S-18-MS-1017
利用形態 ：施設利用
利用課題名（日本語） ：パルスEPR法による一重項開裂に伴う三重項励起子間相互作用の解明
Program Title (English) :
利用者名（日本語） ：長嶋宏樹1), 濱田守彦2), 尾山真也
Username (English) ：H.Nagashima1), M. Hamada1) S.Oyama2)
所属名（日本語） ：1) 神戸大学分子フォトサイエンス研究センター, 2) 神戸大学理学研究科
Affiliation (English) ：1) Molecular Photoscience Research Center, Kobe University, 2) Graduate School of Science, Kobe University.

１．概要（Summary）
光励起により一重項励起子が２つ以上の励起子に分裂する反応は多重励起子生成と呼ばれる。中でもsinglet fission(SF)と呼ばれる反応は、２つの三重項励起子ペアを作り出し、従来の太陽電池の理論限界を130%まで引き上げる反応として注目されている。この反応で生じる三重項励起子対の構造やダイナミクスはまだよくわかっていない。本研究においては、光励起により生じた不対電子のスピン状態とその相互作用を、パルスEPR法および時間分解EPR法を用いて検出及び解析を行った。

２．実験（Experimental）
本研究ではBruker E680、及びナノ秒波長可変レーザーを用いた時間分解電子スピン共鳴およびパルスEPR測定を行った。試料としてTIPS-Pentaceneの凝集体、薄膜および連結系などのSF材料を用いた。

３．結果と考察（Results and Discussion）
ナノ秒レーザーをSF材料に照射することで生成する不対電子を時間分解EPR法により観測した。得られたEPR信号についてパルスEPR法を用いてスピンニューテーションを測定することにより、得られたEPR信号のスピン状態を特徴づけた。TIPS-pentaceneの凝集体において得られた結果をFig.1に示す。磁場によりそれぞれ異なる複数のニューテーション周波数を示し、得られたEPR信号が複数のスピン状態(五重項状態QおよびQ’、三重項状態T)に由来すると明らかにした。この結果を基に、EPR信号をシミュレーションにより再現した(論文2)。EPRスペクトルを説明するためには、結晶状態の良いhot spotにおいてSFが起こり、続く非常に早い三重項の移動によりスピン変換を引き起こし、さらに直後に三重項励起子が安定なトラップ状態へと移動が起こったと考えられる。
以上により、本研究では分子間SFにおける五重項生成機構を明らかにし、スペクトルの解析方法を確立した。

４．その他・特記事項（Others）
特になし

５．論文・学会発表（Publication/Presentation）
(1) Sakai, H.; Inaya, R.; Nagashima, H.; Nakamura, S.; Kobori, Y.; Tkachenko, N. V.; Hasobe, T., Multiexciton Dynamics Depending on Intramolecular Orientations in Pentacene Dimers: Recombination and Dissociation of Correlated Triplet Pairs. J. Phys. Chem. Lett. 2018, vol. 9, p.p. 3354-3360.
(2) H. Nagashima; S. Kawaoka; S. Akimoto; T. Tachikawa; Y. Matsui; H. Ikeda; Y. Kobori, Singlet-Fission-Born Quintet State: Sublevel Selections and Trapping by Multiexciton Thermodynamics. J. Phys. Chem. Lett. 2018, vol. 9, p.p. 5855-5861.

６．関連特許（Patent）
なし