利用報告書
課題番号 :S-15-KU-0056
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :ヒドロキシメチルビラン合成酵素と阻害剤の相互作用の検討
Program Title (English) :Study of the interaction between hydroxymethylbilane synthase and an inhibitor
利用者名(日本語) :佐藤 秀明
Username (English) :Hideaki Sato
所属名(日本語) :久留米大学医学部
Affiliation (English) :Kurume University School of Medicine
1.概要(Summary)
ヘム生合成に関与するヒドロキシメチルビラン合成酵素(HMBS)はジピロメタンを補因子とし,基質ポルホビリノーゲン(PBG)を4分子連結して鎖状テトラピロールであるヒドロキシメチルビランを合成する。HMBSに対する基質の結合メカニズムについて解明するため,本研究ではPBGに類似した構造を有する阻害剤が補因子に対して共有結合を形成するか否かについて,質量分析によって検討した。
2.実験(Experimental)
大腸菌で発現させたヒトHMBSについて各種のカラムクロマトグラフィーによって精製し,補因子の結合したホロ型HMBSを単離した。これを質量分析装置CSI-MS(JEOL社製 JMS-T100CS)により分析して同定した。また,ホロ型HMBSの溶液に阻害剤を添加して調製した試料についても質量分析をおこない,基質に類似した構造を有する阻害剤がHMBSに対して共有結合を形成した場合に想定される酵素・阻害剤複合体の多価イオンピークを探索した。質量分析は通常の高温条件だけでなく,複合体分解の可能性を減少させるために室温条件でもおこなった。
3.結果と考察(Results and Discussion)
精製したHMBSについて高温および室温条件において正イオンモードで測定したところ,いずれの条件でもホロ型HMBSに対応する多価イオンピークが得られたことから,HMBSは補因子を結合したホロ型として単離できていることが確認できた。
一方,HMBSに阻害剤を添加して調製した試料について高温条件で測定したところ,ホロ型HMBSの補因子に阻害剤が共有結合した酵素・阻害剤複合体について予想される多価イオンピークは残念ながら確認できなかった。実際には,アポ型HMBS,およびホロ型HMBSにPBGが1つだけ結合した酵素・基質複合体のそれぞれに対応する多価イオンピークと,酵素から解離したジピロメタン補因子,および補因子にPBGが1つだけ結合した分子のそれぞれに対応する分子イオンピークが観測された。また,より穏和な室温条件でも質量分析をおこなったが,複合体の顕著な安定化は達成できなかった。
前述のような分子種が観測されたことから,まずHMBSのジピロメタン補因子に阻害剤が共有結合した後に,酵素と補因子の間の結合が開裂してしまったことが予想される。また,今回の測定では,基質PBGをハロゲンで修飾した阻害剤を用いたたため,酵素との結合反応の途中もしくは質量分析の測定途中に,阻害剤の修飾部位からハロゲンが脱離してしまったことも考えられる。今後,より脱離しにくい置換基を導入した基質誘導体を用いて阻害剤分解の可能性を排除し,酵素中での補因子と基質(誘導体)との間の結合様式を明らかにしていきたい。
4.その他・特記事項(Others)
共同研究者: 久枝 良雄 教授,増子 隆博 技官
本研究は,JSPS科研費 15K07018の助成を受けて実施された。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。







