利用報告書

フラーレン誘導体LB薄膜の表面観察と評価
日野 和之1)(1) 愛知教育大学教育学部)

課題番号 :S-20-MS-3004
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :フラーレン誘導体LB薄膜の表面観察と評価
Program Title (English) :Surface observation and characterization of LB films of fullerene derivatives
利用者名(日本語) :日野 和之1)
Username (English) :K. Hino1)
所属名(日本語) :1) 愛知教育大学教育学部
Affiliation (English) :1) Aichi University of Education

1.概要(Summary )
 フラーレンを基板に1層から数層堆積させた薄膜は、電子デバイスや光学材料としての利用をはじめ、潤滑性能等の力学的特徴を生かした応用等も含む、多彩な用途での利用が検討されている。しかしフラーレンは成膜の際に凝集しやすく、またその整列・配向の制御も困難であり、品質の安定性の確保や、性能発現機構の詳細な検討は不充分であった。そこで我々は、両親媒性のフラーレン誘導体である「硫酸化フラーレン」を合成し、この分子が気液界面に単分子膜を形成する性質を利用して、LB法により、ガラスまたはITO基板上に硫酸化フラーレンが規則的に配列した薄膜を作製することを試みた。その結果稠密な単分子膜が得られ、また、電気化学測定から、この膜が溶液中の反応物イオン電荷選択的電子移動を示すことが分かった。本研究では、LB薄膜が単分子膜であることをZygoによる膜厚測定を行うことで確認し、さらに複数層堆積させた場合についても評価する。

2.実験(Experimental)
 昨年度に引き続き、界面活性剤でフラーレンを分散させることをZygoによる膜厚測定で検討した。これまでに、フラーレン:ステアリン酸=1:64以上の混合条件で十分に分散できることをπ-A曲線の測定により明らかにしている。今回は、ステアリン酸単体およびフラーレンとの混合系で、それぞれITO基板上にLB膜を作製し、フェリシアン化物イオンの酸化還元反応をCV測定により調べた。このとき、膜を積層するために、基板の引き上げ押し下げを交互に続ける連続転写と、基板に膜転写した後に再びL膜を形成させて膜転写を行うバッチ転写を試みた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 ステアリン酸の単層転写については、フラーレンがよく分散されている様子が見られた。連続3層転写では、部分的にムラが見られたが、バッチ3層転写では、3層分の膜の厚さに対応する約6 nmの高さを確認でき、均一に転写されていた。
 フラーレンとの混合系の単層転写については、ステアリン酸単体と同様に、1層分の厚さのほかにフラーレンの直径約1 nmに相当する膜も確認できた。フラーレンが分散できていることが分かる。連続3層転写では、ステアリン酸単体のものよりもムラが減少した。ステアリン酸分子間にフラーレンが入り込む形で分散していると考えられる。バッチ3層転写では、3層分の膜の厚さに対応する約6 nmの高さのほかにもフラーレンが分散することで生じた階段状の高さ(5 nm, 3 nm, 1 nm)を確認でき、均一に転写されていた。
 ITO基板上にステアリン酸単体の膜を転写して、以下の酸化還元反応に対するCV測定を行った。
[Fe(CN)6]4- ⇄ [Fe(CN)6]3- + e-
 結果は、酸化還元ピークが単層~連続3層≫バッチ3層の順番に減少した。一方、フラーレンとの混合系の膜を転写した場合には、単層≪連続3層~バッジ3層の順に増大した。ステアリン酸単体が電子移動を阻害するのに対して、混合系ではフラーレンが分散して積層することで電子移動を媒介することが分かった。

4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。

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