利用報告書

プラズマと生体相互作用機構の研究
サリノント タパナット, 古閑 一憲
九州大学大学院システム情報科学研究院

課題番号 :S-16-KU-0005
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :プラズマと生体相互作用機構の研究
Program Title (English) :Study on kinetics of interaction between plasmas and living body
利用者名(日本語) :サリノント タパナット, 古閑 一憲
Username (English) :Thapanyt Sarinont, Kazunori Koga
所属名(日本語) :九州大学大学院システム情報科学研究院
Affiliation (English) :Faculty of Information Science and Electrical Engineering, Kyushu University

1.概要(Summary )
ナノ粒子は、ドラッグデリバリなど医療分野への応用が期待されている。しかしながら、ナノ粒子の毒性がしばしば指摘されている[1]。筆者等は、ナノ粒子の毒性を調べる上で重要な知見を与えるナノ粒子の体内動態を明きらかにするため、In系ナノ粒子を作製した。Inは生体内に存在しない元素であり、極微量分析を可能とする。図1に体内動態研究のコンセプトを示す。本研究では、液中プラズマで作製したIn系ナノ粒子をラットの皮下に投与し、内臓へのIn輸送を計測することで、ナノ粒子の体内動態を評価した。

Fig. 1. Concept of studying kinetics of nanoparticles in living body.

2.実験(Experimental)
Inナノ粒子の作製実験では、純水中に浸したIn棒とIn板の間にパルス電圧を印加して放電を生成した[2]。放電電圧と周波数はそれぞれ9.2kVtと10kHzとした。作製したナノ粒子の1次粒子と2次粒子のサイズはそれぞれ、透過型電子顕微鏡(日本電子JEM-2100)と動的散乱計測装置(大塚電子ELS-Z)を用いて計測した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図2に実験前と実験後の水の写真を示す。放電終了後、水は透明から黄色に変化する。放電終了後、上澄み液を採取して、透過電子顕微鏡と動的散乱計測装置を用いてサイズを計測したところ、一次粒子と二次粒子のサイズはそれぞれ7nmと315nmであった。

Fig. 2. Water color before and after discharges.

ナノ粒子の化学組成と構造を計測するため、ラマン分光法、エネルギー分散X線分光法、X線回折法を用いた。ラマン分光計測結果より、ナノ粒子中にIn2O3が含まれていることを明らかにした。エネルギー分散X線分光と、X線回折計測結果より、Inおよび水酸化Inの結晶粒子が発生しており、その組成比は8:2であることを明らかにした。
作製したInナノ粒子を用いて、ラット(Wister rat, male (Crlj:WI))の皮下にナノ粒子を投与した。皮下投与後、内蔵、血液、糞尿を採取し、それぞれのサンプルのIn濃度をICP質量分析器を用いて計測した。投与36週間後、皮下に投与したInナノ粒子の1%が皮下から内蔵に、2%が糞尿に輸送している事を明らかにした。また尿の動的散乱計測からInナノ粒子が検出されており、Inナノ粒子が、皮下から血液を介して内蔵へ輸送されていることを示唆する結果を得た。
生体内輸送とナノ粒子サイズの関係について、試験的に調べた所、一次粒子のサイズが小さいほど、ナノ粒子が迅速に体内に移行することを明らかにした。
以上の結果は、作製したIn系ナノ粒子がナノ粒子の生体内動態評価に有用であることを示している。

参考文献
[1] A. Tanaka, M. Hirata, Y. Kiyohara, M. Nakano, K. Omae, M. Shiratani, and K. Koga, Thin Solid Films, 518, 2934 (2010).
[2]T. Amano, T. Sarinont, K. Koga, M. Hir1ata, A. Tanaka, and M. Shiratani, J. Nanosci. Nanotechonl., 15, 9298 (2015).

4.その他・特記事項(Others)
本研究の一部は、科学研究費補助金 課題番号24108009、26246036、16H05257のサポートを受けた。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 田中昭代, 平田美由紀, 松村渚, 古閑一憲, 白谷正治, 第27回日本微量元素学会学術集会, 2016-07-30.
(2) K. Koga, A. Tanaka, M. Hirata, T. Amano, T. Sarinont, H. Seo, N. Itagaki, M. Shiratani, 9th International Symposium on Advanced Plasma Science and Its Applications for Nitrides and Nanomaterials / 10th International Conference on Plasma Nanotechnology and Science (ISPlasma2017/IC-PLANTS2017), 2017-03-02.

6.関連特許(Patent)
なし。

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