利用報告書
課題番号 :S-16-MS-0005
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :プレニル基転移酵素のNMR解析
Program Title (English) :NMR structural analyses of prenyltransferases
利用者名(日本語) :松井 崇 1), 児玉 猛1), 伊藤 卓也1), 西村 勝之2) ,森田 洋行1)
Username (English) :T. Matsui1), T. Kodama1), T. Ito1), K. Nishimura2),H. Morita1)
所属名(日本語) :1) 富山大学和漢医薬学総合研究所, 2)分子科学研究所
Affiliation (English) :1) University of Toyama, 2) Institute for molecular science
1.概要(Summary )
プレニル基転移酵素(PT)は、生命現象を司る一次代謝産物の生体内物質や医薬品としても重要な二次代謝産物である低分子化合物等の生理活性の発現において重要なプレニル化修飾を担う。申請者らは、一次代謝に関与するPTはその阻害剤の開発、二次代謝に関与するPTは酵素機能を拡張して創薬を志向した新規生理活性プレニル化化合物の創出を目的に、PTの立体構造解析を行ってきた。その結果、Sphaerobacter thermophilus由来トリプトファンPT(ComQ)と糸状菌由来インドールPT(CdpNPT)のX線結晶構造解析に成功した。ComQは、枯草菌のバイオフィルム形成に関与するフェロモンComXの前駆体ペプチド中のTrpをファルネシル化する一次代謝酵素であり、本酵素を標的としたバイオフィルム形成阻害剤の開発・利用が期待されている。申請者らは、ComQのX線結晶構造を取得し、ComQとComX前駆体との複合体結晶構造解析を試みたが、未だ複合体結晶は得られていない。また、ComQのX線結晶構造中にComX前駆体全長を保持し得るcleftを確認できないため、阻害剤開発に有用なComX前駆体の認識と結合を担うComQのアミノ酸残基は不明である。以上の理由から、本研究では溶液NMRによるComXの立体構造解析を試みた。
2.実験(Experimental)
申請者らは、13C, 15N安定同位体標識した [U-15N]ComX、および[U-13C,15N]ComXの発現、精製を行い、溶液NMR試料を調製した。溶液NMR測定は、分子科学研究所、日本電子社製920 MHz 超高磁場NMR分光器を用いて、信号帰属および立体構造解析に必要な一連の2次元、および3次元測定を27℃で行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
当該試料は濃縮が困難な低濃度試料であるため、十分なスペクトル感度を得るには長期積算が必要であった。15N-HSQCスペクトルでは、残基数に近い数の主鎖由来の相関信号が観測されたが、各信号の強度分布が大きく、比較的構造安定性が低いことが示唆された。当初、全ての測定は順調に進んだが、9月の初旬、測定中に台風による瞬間停電が発生し、試料温度調節が一時的に不能になり、測定試料が高温状態になるトラブルが発生した。トラブル直後の測定では、以前と同様なスペクトルが確認されたが、その後徐々に一部の信号が消失し、試料劣化が示唆されたため、やむなく測定継続を断念した。
当該試料が安定な短期間に必要な各種多次元NMR測定を完了するため、試料の高感度化が必須である。当該試料の水溶液を濃縮する手法では、困難であったため、当該試料を一度凍結乾燥後、溶解させ、濃縮する調製法の検討を行った。検討の結果、本手法を用いても試料の高濃度化は、前条件の倍未満程度が限界であることが判明した。凍結乾燥により濃縮した試料と既存試料の15N-HSQCスペクトルの比較から、凍結乾燥試料では、一部の信号の消失およびシフト、複数の低強度の余計な信号が観測され、凍結乾燥による立体構造の変化が確認された。これまでの一連の実験結果の検討から、当該試料に残存する精製用タグ配列の割合が高く、このタグ領域が構造の不安定性と高濃度化妨げの双方の原因となっていることが示唆された。今後、タグ配列を除去、精製する試料調製法を確立して再度、構造解析を試みることとした。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし







