利用報告書
課題番号 :S-18-MS-0024a, S-18-MS-0024b
利用形態 :協力研究(ナノプラット)<前期><後期>
利用課題名(日本語) :プロトン導電性無機固体酸の構造と熱安定性性
Program Title (English) :Crystal structure and thermal stability of proton conducting phosphate
利用者名(日本語) :松田 泰明, 元辻みのり
Username (English) :Yasuaki Matsuda, Minori Mototsuzi
所属名(日本語) :大阪工業大学工学部応用化学科
Affiliation (English) :Osaka Institute of Technology
1.概要(Summary )
プロトンの拡散は、生物の代謝や燃料電池などのエネルギーデバイスに関わる基礎的な現象である。このため、優れたプロトン導電体は、生体模倣材料から新規デバイスまで多様な応用が期待される。無機固体は、不燃で化学的安定性に優れる一方で、強固な構造中でのプロトンの高速拡散が難しい。このため、プロトン導電体の研究は、限られた結晶系に留まっており、新規系でのプロトン導電体の開拓が切望されている。
本研究は、申請者の見出したプロトン導電体の新規系RbMg1-xH2x(PO3)3·yH2Oの結晶構造に着目し、物質開発を行った。まず、プロトンを多く含むリン酸塩に含まれるPO4四面体を連結させることで、イオン拡散に適するトンネル型構造の構築を試みた。次に、価数の異なる陽イオンを組み合わせる手法により、過剰プロトンを結晶中に導入し、PO4四面体と水素結合を形成させることで、PO4四面体鎖に沿ったプロトンプロトン拡散経路を構築しようと試みた。その結果、トンネル型構造を有し、そのトンネル内に水分子の一次元鎖をもつ新規物質を開発し、200°C付近まで10-3 Scm-1の高プロトン導電特性の発現に成功した。
2.実験(Experimental)
試料合成は共沈法で行った。所定のモル比で秤量したアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩を0.5 mol/Lリン酸水溶液30 mLに溶解させたのち、大気中、120ºCで12 – 36 h乾燥した。得られた前駆体を大気中で250ºC, 12 – 18 h焼成し、目的物質を得た。合成した試料についてX線回折測定、中性子線回折測定、TG/DTA測定、交流インピーダンス測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
X線回折測定では、x = 0 – 0.20の全ての組成においてトンネル型RbMg1-xH2x(PO3)3・yH2Oと類似の回折図形が観測され、これらの反射は、稜面体晶系で帰属された。格子定数は, a軸、c軸ともに、xに対して収縮する傾向が確認された。x = 0 – 0.20の範囲に固溶域が存在すると考えられる。熱測定では、いずれの組成も、室温からの吸着水または結晶水の脱離による重量減少と150ºCからの結晶水の脱離による重量減少が観測された。結晶水の量は、xと共に増加し、過剰プロトンの導入により、保水力が増加したと考えられる。構造解析より、この物質は、KO6八面体とMgO6八面体が面共有で連結した一次元鎖とPO4四面体鎖が連結したトンネル型構造を有し、トンネル中に2種類の水分子の酸素のサイトがあることが分かった。このうちの1つは、K+に配位しており、より高温まで保持されたと考えられる。水分子は、互いにトンネル内に非常に隣接しており、一次元鎖を形成していた。これらの水分子は、超イオン導電体に特有なイオンの配列をしており、プロトンの高速拡散経路であると考えられる。KMg1-xH2x(PO3)3・yH2Oのプロトン導電率は、プロトン量の増加とともに向上し、x = 0.20は、200°Cにおいて7 x 10-3 Scm-1の高プロトン導電率を示した。
4.その他・特記事項(Others)
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 松田泰明 他、第44回固体イオニクス討論会,平成30年12月.
(2)松田泰明 他、電気化学会第86回大会,平成31年12月.
他(国内学会1件、国際学会1件申請済み)
6.関連特許(Patent)
「なし。」
参考文献
[1] Y. Matsuda, et al., J. Mater. Chem. A, 1, 15544 (2013).