利用報告書

マルエージ鋼組織の残留オーステナイトの定量評価
知場 三周1)
1) 名古屋工業大学 大学院工学研究科

課題番号 :S-18-NI-0037
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :マルエージ鋼組織の残留オーステナイトの定量評価
Program Title (English) :Quantitative analysis of retained austenite in Maraging steel
利用者名(日本語) :知場 三周1)
Username (English) :T. Chiba1)
所属名(日本語) :1) 名古屋工業大学 大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Nagoya Institute of Technology

1.概要(Summary )
 Ni3TiやFeMoなどの微細な金属間化合物が析出するマルエージ鋼は金型などの高強度部材に適用されている.マルエージ鋼は優れた強度と局部伸びを有するが、一方で均一伸びは小さい.
本研究では,残留するオーステナイトが加工時に加工誘起マルテンサイト変態するTRIP効果による均一伸びの向上を目的とし,部分焼入れ焼き戻し処理を行う熱処理,いわゆるGreninger-Troiano(G-T)法を用いて母相オーステナイトを安定化させた試料の残留オーステナイト量を定量評価する.

2.実験(Experimental)
 供試材として18%Niマルエージ鋼(300kgf級)を用いた.試料は初め1150 ℃で10分間のオーステナイト化処理を施し,その後熱膨張計により予め測定したマルテンサイト変態開始点(195 ℃)直下温度に加熱したオイルバス中に焼入れを行った.その後直接焼き戻し温度である500 ℃に加熱したソルトバス中で20分間の焼き戻し処理を行い,焼き戻し処理後に水焼き入れした(G-T材).また比較材として,G-T法を施さず,オーステナイト化処理後に直接水焼き入れした試料(As-Q材)および水焼き入れ後,500 ℃で20分間の焼き戻し処理した試料(QT材)も作製した.
 残留オーステナイト量の定量評価には,散乱配置の内部転換電子メスバウアー分光法を用い,室温における57Feメスバウアースペクトルを測定した.測定用試料を9 mmw×7 mml×1 mmtに切り出した後,測定面を鏡面研磨および電解研磨した.表面検出深さは100nm程度であり,ドップラー速度(範囲±8 mm/s)の校正は-Fe箔のスペクトルで行った.測定時間は70時間を要した.

3.結果と考察(Results and Discussion)
 走査型電子顕微鏡および電子線後方散乱回折法による組織観察の結果,残留オーステナイトはマルテンサイトラス境界に多く残留していることが分かった.
内部転換電子メスバウアー分光法により得られたメスバウアースペクトルを2組の磁気分裂サブスペクトルおよび非磁性サブスペクトルを用いて最小二乗フィッティングした結果,As-Q材ではマルテンサイト単相であるのに対し,QT材およびG-T材ではそれぞれ1%および5 %程度の残留オーステナイトを検出した.この結果は,X線回折法により測定した結果(残留オーステナイト量:6 %)と良く一致した.TRIP効果の発現による均一伸びの向上にはより多くの残留オーステナイト量が必要であるため,今後G-T法の条件を再検討する.

4.その他・特記事項(Others)
なし.

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
日本鉄鋼協会 自主フォーラム「量子ビームによる組織解析に基づく力学的機能発現機構の理解」,2019年2月15日,豊橋技術科学大学

6.関連特許(Patent)
なし.

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