利用報告書

ラマン顕微鏡を用いたリグニン局在性の評価
梶田真也
東京農工大学大学院生物システム応用科学府

課題番号 :S-16-NM-0099
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :ラマン顕微鏡を用いたリグニン局在性の評価
Program Title (English) :Characterization of lignin localization by Raman microspectroscopy
利用者名(日本語) :梶田真也
Username (English) :SHINYA KAJITA
所属名(日本語) :東京農工大学大学院生物システム応用科学府
Affiliation (English) :Graduate School of Bi-Applications and Systems Engineering, Tokyo University of Agriculture and Technology

1.概要(Summary)
植物細胞壁に蓄積するリグニンは芳香族のポリマーであり、植物の体勢維持や水分通導、ストレス応答に関わる重要な化学成分である。このポリマーは化学構造の異なるグアイアシル、シリンギル、p-ヒドロキシフェニルの3つの部分構造を持つことが知られている。この違いは、リグニンの重合に関与するモノマーの構造の差異に起因しており、植物種、組織、細胞ごとにリグニンの部分構造の存在比が異なっている。この違いの生物学的な意味は十分に解明されていないが、組織や細胞の生理的な機能の違いを生み出す要因の一つであると思われる。
本研究では、モデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いて、組織や細胞の違いによるリグニンの構造の差異をラマン分光分析により評価することを試みた。

2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
・高速レーザーラマン顕微鏡

【実験方法】
土壌で一定期間生育させたシロイヌナズナの花茎を材料として、クライオスタットで薄切片を調製した。得られた薄切片をエタノールで洗浄し、スライドグラスに貼り付けたのち、ラマン顕微鏡を用いて束間繊維細胞と道管の細胞壁のラマンスペクトルを測定した。

3.結果と考察 (Results and Discussion)
測定の結果得られたスペクトルの例をFig. 1に示す。実験開始当初は十分な分解能でのスペクトルが観測できなかったが、試料をエタノールで洗浄したことで低分子の化合物に由来する蛍光が除去され、細胞壁成分に由来するシグナルを検出することが可能となった。いずれの細胞でもリグニンと多糖に由来する明確なシグナルが認められ、またリグニン中のケイ皮アルデヒド残基に由来すると推察される1,650 cm-1付近のシグナルも検出された。
今回の一連の取り組みで基礎的な知見が得られたため、今後は同様の方法によりリグニンの生合成遺伝子に変異を持つ複数の個体を調査し、組織や細胞の違いによるリグニンの分子構造の差異をより詳細に解析することが可能になると思われる。

Figure 1. Raman spectra acquired from cell walls in interfascicular fiber (A) and vessel element (B). Different lines indicate the data from independent cells. Signals from polysaccharides and lignin are shown as blue and yellow, respectively.

4.その他・特記事項(Others)
機器の使用に際してトレーニングを受講し、また測定トラブルに対しては、担当者に迅速に対応してもらった。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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