利用報告書

ワインの澱を炭化させた黒色顔料の研究
神谷 佳男
金沢美術工芸大学 美術科 芸術学専攻

課題番号 :S-16-JI-0007 NPS14085
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :ワインの澱を炭化させた黒色顔料の研究
Program Title (English) :Study of black pigment made of carbonized lees of wine
利用者名(日本語) :神谷 佳男
Username (English) :Yoshio KAMITANI
所属名(日本語) :金沢美術工芸大学 美術科 芸術学専攻
Affiliation (English) :Aesthetics & Art History Course, Department of the Fine Art, Kanazawa College of Art

1.概要(Summary)
申請者は、かつて「フランクフルト・ブラック」と呼ばれ凹版画(一般にエッチングやビュラン)用インクとして重宝されてきた幻の黒色顔料を、石川県の(株)能登ワインから原料を入手し炭化させ復活させた。ワインの澱から作る顔料の特徴を観察し、高品質な黒色顔料製造の安定化に向けた条件を得ていくために、電子顕微鏡による観察、赤外光の吸収等の観察を実施した。
2.実験(Experimental)
・利用機器
走査透過型電子顕微鏡・STEM(日本電子製 JEM-ARM200F)、走査型電子顕微鏡・SEM(日立 S-4100)、大阪大学の全反射FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計 日本分光“6100FV MCT-600”)他。
・実験内容
ワインの澱の炭の粉砕時間を①30分粉砕、②60分粉砕、また③市販の顔料(Mars Black)、さらに長時間粉砕した澱の炭をインクにして刷った版画の紙片について走査透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡で観察した。また、1~7時間の粉砕時間差のサンプル、市販のインク2種について大阪大学の全反射FT-IR測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
・走査型電子顕微鏡観察- 顔料
② 60分粉砕した炭は、粒径5~50μmの細かな粒子が多いが、① 30分粉砕は50μm以上の粒子が多く観察

された。現在、酸化鉄から工業的に生産されている③ Mars Blackは、粒径の揃ったサブミクロンの細かな粒子からなる塊で観察された。

・走査透過型電子顕微鏡観察
顔料粒子の透過像と元素分布をEDSで確認したところ、3μm程度の微粒子でも内部構造に粗密があり、成分としては炭素、酸素、カリウムが粒子全体に分布している状態が観察された。

・印刷版画の表面観察
刷った版画の紙片の表面の走査型顕微鏡観察では、顔料の粒径にやや差がみられるものの、大きな違いは見られない。

・インクの顔料の赤外線吸収特性
全反射FT-IRでそれぞれの特徴を観察した。波数1700 cm-1より低エネルギー(波数小)に市販インクにない、特徴的な吸収ピークが観察された。これはインクの顔料の成分による違いと考えられる。

・考察
本来廃棄されるところのワインの澱を炭化させ、澱の炭を粉砕し、美しい黒と絶賛されていた幻の黒色顔料「フランクフルト・ブラック」の再現を試みた。
市販の顔料は粒径がサブミクロンと小さく整っており、ワインの澱から作った黒色顔料のそれとは単純に比較できないものの、炭の粉砕時間をより長くすることにより得られた顔料からは深みのある黒インクが出来上がった。
粒子の大きさだけでなく、様々な成分を含むワインの澱の顔料は、幅のある粒径と共に、物質的魅力を訴えているように感じられる。今後は篩やメッシュ等で粒径を揃えるなど、より多くの条件を設定してワインの澱由来の黒色顔料を分析し、忘れ去られた魅力を持つ黒色顔料の安定した製造に向けての開発方針を見出すことができたと考える。
4.その他・特記事項(Others)
今回の研究で多くの方に多大な助言・ご協力をいただきました。
大木進野(JAISTナノマテリアルテクノロジーセンター)
大島義文(JAISTマテリアルサイエンス研究科)
伊藤真弓(JAISTナノテクノロジープラットフォーム)
谷口扶紀子(JAISTナノテクノロジープラットフォーム)
東峰孝一(JAIST産学連携本部技術サービス部)
北島彰(大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点)
の各氏には専門的立場からご協力をいただき深く感謝します。松山豊氏(JSTナノテクノロジープラットフォーム事業)には様々な面で本当にお世話になりました。ありがとうございました。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)

著名:「幻の顔料フランクフルト・ブラックの復元的研究」
著者:神谷佳男、保井亜弓
発行:金沢芸術学研究会
発刊:2017年3月31日

6.関連特許(Patent)
なし

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