利用報告書
課題番号 :S-17-MS-2013
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :不活性化したシリコン基板上に成長させたフタロシアニン薄膜の電子状態と磁性
Program Title (English) :Electronic states and magnetism of iron phthalocyanine thin films grown on passivated silicon substrates
利用者名(日本語) :大野 真也1), 高柳 周平2)
Username (English) :S. Ohno1), S. Takayanagi2)
所属名(日本語) :1) 横浜国立大学大学院工学研究院, 2) 横浜国立大学工学府
Affiliation (English) :1) Faculty of Engineering, Yokohama National University, 2) Graduate School of Engineering, Yokohama National University
1.概要(Summary )
シリコン基板上に作製される有機薄膜は、FET、LED、太陽電池、磁気メモリなど多様な応用が期待されており、重要な物質材料である。磁性フタロシアニン分子では、配向、配列構造、分子間相互作用、分子-基板相互作用と電子状態、磁性の関係に興味が持たれているが、まだ十分には解明されていない。本研究では、NEXAFSとXMCDを用いて配向と磁性の情報を得ることを目的として研究を行った。
2.実験(Experimental)
シリコン表面を清浄化し、銀吸着後に加熱することによりSi(111)-√3x√3-Ag表面を作製した(√3-Ag)。この表面上に数原子層のFePc薄膜を蒸着し、NEXAFS測定とXMCD測定を行うことにより分子配向と磁性に関する知見を得た。試料は、液体ヘリウムを用いて約7 Kに冷却して測定した。NEXAFS測定では、NのK吸収端について入射角をとしてθi=0°, 15°, 30°, 45°, 55°の条件で測定を行い配向角を定量化した。XMCD測定では、FeのL吸収端について±5 Tの磁場を試料面に平行な方向に印加し差分信号を得た。
3.結果と考察(Results and Discussion)
本研究は、三期連続で行った研究の最終期のものである。不活性シリコン表面として√3-Ag表面に着目して研究を行った。その理由は、この表面上での有機分子の規則配列構造に関する研究が多く行われており、かつ伝導性に関しても興味深い知見が報告されていることにある。
膜厚を数層程度に設定し、二回目に行った自然酸化面とほぼ同条件においてNEXAFS測定とXMCD測定を行い配向、磁性の研究を進めた。
√3-Ag表面上でFePcが寝た配向をとることを確認した。自然酸化面では配向がよりランダムになることが示唆された。磁気円二色性の信号を明瞭に検出することに成功した。ガス分子曝露による、配向、磁性変化を検出する実験を行ったが、明瞭な変化を観測することはできなかった。しかしながら、準大気圧条件(~10 Pa程度)まで曝露圧力を上げた測定を首尾良く実施することができた。同時期に行った光電子分光の実験により、僅かに電子状態が変化する場合があることが分かったためこれらの実験との比較を進めた。
FePc膜厚を最適化することによりXMCD信号を再現性良く取得できるまでに至ったが、ガス分子との反応性に関しては有意な変化を見出すことができず、そのために十分な知見を得るには至らなかった。しかしながら、NEXAFS測定に関しては他の基板を用いた実験をKEK-PF, SAGA-LSにおいて同時期に行っており、基板依存性についてまとまった知見を得ることができた。今後、光電子分光で観測された変化がXMCD信号にどの様な影響を与えるかを検討し、所期の目的を達成したいと考えている。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。