利用報告書

不活性化した半導体基板上に成長させたフタロシアニン薄膜の電子状態と磁性
大野真也1),坂井田樹1)(1) 横浜国立大学)

課題番号 :S-20-MS-2002
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :不活性化した半導体基板上に成長させたフタロシアニン薄膜の電子状態と磁性
Program Title (English) :Electronic states and magnetism of phthalocyanine thin films grown on passivated semiconductor substrates
利用者名(日本語) :大野真也1),坂井田樹1)
Username (English) :S. Ohno1), I. Sakaida1)
所属名(日本語) :1) 横浜国立大学
Affiliation (English) :1) Yokohama National University

1.概要(Summary)
 半導体基板上に作製される有機薄膜は、FET、LED、太陽電池、磁気メモリなど多様な応用が期待されており、重要な物質材料である。磁性フタロシアニン分子では、配向、配列構造、分子間相互作用、分子-基板相互作用と電子状態、磁性の関係に興味が持たれているが、まだ十分には解明されていない。

2.実験(Experimental)
 UVSOR BL4Bにおいて、X線磁気円二色性(XMCD)および吸収端近傍微細構造(NEXAFS)の測定を行った。自然酸化膜(SiO2)上に転写された単層CVDグラフェン上(以下、Gr)に数層のFePc薄膜を蒸着し、XMCD測定とNEXAFS測定を行うことにより分子配向と磁性に関する知見を得た。試料は、液体ヘリウムを用いて約5 Kに冷却して測定した。XMCD測定はFe L吸収端と、NEXAFS測定はN K吸収端について、入射角0°, 15°, 30°, 45°, 55°, 65°の条件で測定を行った。FeのL吸収端について±5Tの磁場を印加し差分信号を得た。

3.結果と考察(Results and Discussion)
これまでの研究により、SiO2とGrではMCDスペクトルの形状が異なり、顕著な磁性の変化を示唆している。本実験では、後者について高エネルギー分解能測定、およびXMCD測定での角度依存性の測定をより詳細に行うことで、その起源を解明することを目指して測定を進めた。
NEXAFS測定により、FePc分子は面内配向に近い配向を取ることを確認した。このことにより、FePc分子の持つD4h対称性を利用して総和則に基づく解析が可能となる。
FePc分子では、フント則の第一規則が破れることにより、S=2ではなくS=1が基底状態になると考えられている。S=1の状態に対応する電子スピン配置にはいくつか候補があるが、見解が分かれている。
本実験では、X線吸収スペクトルを高エネルギー分解能で取得することにより、3Egの対称性をもつ基底状態がもっともらしいことを確かめた。その上で、総和則を適用することにより、軌道磁気モーメントとスピン磁気モーメントの定量化を進めた。その結果、分子面内方向の磁気モーメント(mLxy)が面直成分よりも大きく、かつとスピン磁気モーメント(ms)に対する比が約1.0程度であり文献値よりも大きいことが見出された。この結果は、単層CVDグラフェン上のFePc薄膜について軌道磁気モーメントが顕著に増大することを示している。また、これまでの実験結果との比較によりグラフェンが存在しない場合、即ち、自然酸化膜(SiO2)上とは磁気異方性が顕著に異なることが判明している。不活性基板との相互作用は比較的弱いはずであるが、それにも関わらず基板の違いにより磁性がなぜ顕著に変化するのかはまだ良く分かっていない。表面モフォロジーがFePc分子膜内部の分子配列に影響を与え、それが磁気異方性に寄与していることが予想される。
 本実験と平行して、UVSOR BL6Bにおいて同じ系について光電子運動量顕微鏡による測定も進めている。これらの結果とも合わせた研究報告を計画している。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。

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