利用報告書

不溶性リチウムイオン内包フラーレンクラスターの分光分析
笠間 泰彦, 河地 和彦, 浅野 勝好
イデア・インターナショナル株式会社

課題番号 :S-16-TU-0007
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :不溶性リチウムイオン内包フラーレンクラスターの分光分析
Program Title (English) :Spectroscopic analysis of insoluble lithium-ion-endohedral fullerene cluster.
利用者名(日本語) :笠間 泰彦, 河地 和彦, 浅野 勝好
Username (English) :Yasuhiko Kasama, Kazuhiko Kawachi, Katsuyoshi Asano
所属名(日本語) :イデア・インターナショナル株式会社
Affiliation (English) :Idea International Co., Ltd.

1.概要(Summary)
リチウムイオンをC60フラーレンケージ中に閉じ込めたリチウム内包フラーレン(図1、Li+@C60)は2010年に初めて単離され、その構造が明らかになって以来1),様々な基礎および応用研究が行われている。当社はLi+@C60の合成・販売を独占的に行っている。しかし、製品の製造過程で生じる不溶性物質についての知見は極めて少なく、生産効率の改善に障害となっている。そこで、本研究では固体NMR法を用いてLi+@C60を含む不溶性固体の解析を行い、その定量評価法について検討を行った。

2.実験(Experimental)
7Li核の固体NMRの測定はJEOL ECA-800分光計を用いて共鳴周波数310.96 MHzにて行った。固体7Li NMRにおける定量性を確保するため、十分な待ち時間を用いて測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
Li+@C60製品の製造過程で生じる不溶性物質について固体7Li NMRの測定により検討した結果、Li+@C60を中心としてクラスター構造が推定された(図2)。 この知見をもとに、Li+@C60の単離・精製プロセスを検討した。固体7Li NMRから最も多く含まれていることが分かった水酸化リチウムは、Li+をC60フラーレンにイオン注入する際に生成する、C60フラーレンに外接しているLiを除去する過程で生じる。改良したプロセスでは、この酸性水を用いる処理を省略し、使用する溶媒も脱水溶媒に変えた。これにより工程の簡略化と単離における効率向上が可能となった。さらに、超音波処理を行うことでクラスターを細かくすることが可能となり、単離効率が上がることがわかった。
以上のように本研究では、Li+@C60製品の製造過程で生じる不溶性物質について、知見を得ることができた。この知見は製造プロセスの最適化に活用することができ、これまで廃棄していたLi+@C60が回収できたと考える。本課題の解決は、最終生成物の収率を向上させることにもつながり、生産コストの削減にも大きく寄与するため、今後もぜひ継続して行いたい。最終目標は、金属内包C60フラーレンの初めての工業材料としての安定な生産技術を確立したい。

図1. Li+@C60の分子構造.

図2. Li+@C60を含む不溶性固体クラスターの推定構造.

4.その他・特記事項(Others)
本研究は「平成28年度研究設備の試行的利用事業」の助成を受けて実施されました。ここに記して,感謝の意を表します。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

参考文献
1)S. Aoyagi, E. Nishibori, H. Sawa, K. Sugimoto, M. Takata, Y. Miyata, R. Kitaura, H, Shinohara, H. Okada, T. Sakai, Y. Ono, K. Kawachi, K. Yokoo, S. Ono, K. Omote, Y. Kasama, S. Ishikawa, K. Komuro, H. Tobita, Nature Chemistry, 2, 678 (2010).

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