利用報告書

任意波形発振器を用いた, スピンダイナミクスのコヒーレント制御法の開発
長嶋宏樹1) (1) 埼玉大学大学院理工学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1053
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :任意波形発振器を用いた, スピンダイナミクスのコヒーレント制御法の開発
Program Title (English) :Development of the coherent control methods of spin dynamics using arbitrary wave generator
利用者名(日本語) :長嶋宏樹1)
Username (English) :H. Nagashima1)
所属名(日本語) :1) 埼玉大学大学院理工学研究科
Affiliation (English) :1) Department of Chemistry, Graduate School of Science and Engineering, Saitama University

1.概要(Summary )
化学反応を制御して, 求める反応生成物を効率良く得ることは, 化学における重要な課題である。光合成や太陽電池などの様々な応用面から注目される電荷分離反応では, 光によって電子スピンを持つラジカル対が生成する。電子スピンは外部磁場との相互作用するために, 静磁場の存在下において, 反応の収量が変化する場合があり, 磁場効果と呼ばれる。磁場効果は通常数%程度しかないことも多い。静磁場ではなく振動する磁場を用いると, スピンの向きが反転する磁気共鳴現象が起こって, 反応量を変化させることができる。この方法は反応収量検出磁気共鳴(Reaction yield detected magnetic resonance, RYDMR)と呼ばれる。
 従来のRYDMRや磁気共鳴法では単一の周波数しか持たない電磁波が用いられてきた。代わりに任意波形発生器(Arbitrary wave generator, AWG)を用いて, 様々な周波数の電磁波を任意の位相で照射することによって, 反応を制御できるはずである。当研究室では, そのための理論, 局所制御理論を確立した1。量子論に基づいて, 目的の量子状態の収率を高くするために必要な電磁波を計算できる。
本研究では, この理論を実験的に実証し, 量子コンピューティングなどの応用へとつなげることを目的として, 計測技術の確立に取り組んだ。
2.実験(Experimental)
本研究では, AWGが備え付けられた, パルス電子スピン共鳴装置(Bruker E680)および, レーザーを用いて, AWGの性能評価, 任意波形の発振, さらに光反応過程を観測した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
AWGのテストとして, 開発した任意波形を入力し、検出器において検出された波形を取得して比較した。装置関数のために若干の歪みが観測された。この歪みには発振器側の周波数特性に加えて,オシロスコープなどの周波数特性やノイズも乗っていると考えられ, 実際の測定系において生じた電磁場の大きさと波形はまだ正しく評価できていないことと考えている。この歪みが, 制御にどのくらい影響を与えるかについてRYDMR計測を行い, 実験的に評価することが今後の課題である。
そこで, RYDMRを極低温で実施するためのセルの開発に取り組んだ。ESRの装置と組み合わせてRYDMR計測を行えるように, セルのサイズはESRの試料管に収まる直径2 mmとした。セルの下部にはミラーを装着し, 上部からプローブビームを入射する。反応によって生じた生成物はプローブビームの吸収から観測できる。実際のセルの評価のために, 過渡吸収計測を行ない, 信号の観測に成功した。今後はAWGとRYDMRセルを組み合わせて,局所制御理論の実証のための実験を開始する。

4.その他・特記事項(Others)
参考文献
1 Masuzawa, Sato, Sugawara, Maeda, Quantum control of radical pair reactions by local optimization theory, The Journal of Chemical Physics, (2020), 152, 014301.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.