利用報告書
課題番号 :S-19-MS-0015
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :低速摩擦すべりによる石英中のE₁’ 中心の生成機構の解明
利用者名(日本語) :田中桐葉1)
所属名(日本語) :1) 東北大学大学院理学研究科 地学専攻
1.概要
E1’ 中心の緩和時間から、低速摩擦運動による珪砂中のE1’ 中心の生成機構を定量的に議論するため、摩擦前後の珪砂を対象にパルスESR測定を行った。出発物質、摩擦試料のE1’ 中心のスピン-格子緩和時間はそれぞれ630、820 µs、スピン-スピン緩和時間はそれぞれ33-41、5-120 µsであることが分かった。
2.実験 利用した装置:ESR(E-680)
申請者は、不純物をほとんど含まない石英を主成分とする珪砂(JIS-試験用粉体1.1種)に対して低速摩擦実験(すべり速度:0.76 mm/s、垂直応力:1.0 MPa、変位量:0.28-1.4 m)を行った。摩擦実験前後の試料のcw-ESR測定から、石英中にはE1’ 中心(g1 = 2.0010、g2 = 2.0006、g3 = 1.9997 [1])が存在し、変位量の増加と共にESR信号強度、マイクロ波電量依存性が変化することが明らかになった。しかし、石英粒子中のどの部分に存在する欠陥が、どの程度生成・消失に起因しているのかは定かではない。そこで、パルスESR測定により得られるE1’ 中心の緩和時間から欠陥構造や局所濃度に関する議論を行い、E1’ 中心の生成機構を明らかにしようと考えた。パルスESR測定は室温化でマイクロ波電力0.2007 mWとし、繰り返し時間250-20000 µs後のスピンエコー強度を観測する実験と、繰り返し時間250 µs、パルス間隔23984 nsの時のスピンエコー強度変化を観測する実験を行った。スピンエコー強度f(xa)は、繰り返し時間x1とパルス間隔x2と関係があり、次の式で表される。
f(xa) = y0 + A1 exp (-xa/Ta1) + … + Ai exp (-xa/Tai)
¬a = 1, 2、y0、Aiは定数とし、iの値はスピンエコー信号の測定位置のピーク成分の個数とする。スピン-格子緩和時間T1iは f(x1)とx1、スピン-スピン緩和時間T2iは f(x2)とx2とそれぞれ関係しており、測定結果を上記関数でフィッティングし、T1i、T2iを算出した。
3.結果と考察
摩擦実験試料のスピンエコーの磁場掃引スペクト
ルには2つのピークが見られた(図1)。cw-ESR測定では、E1’ 中心とPeroxy 中心(g1 = 2.0020、g2 = 2.0073 [2])が観測され、g値から、鋭いピークがE1’ 中心、幅広いピークが Peroxy 中心と考えられる。なお、幅広いピークの測定位置は、鋭いピークが重ならない位置とした。
幅広いピークの測定位置にはピーク成分が1つあるとし、i = 1の時のf(xa)を用いて、T11は鋭いピークよりも小さく、T21は数µsであった。一方、鋭いピークの測定位置には幅広いピークが重なっており、i = 2の時のf(xa)を用いて緩和時間を算出した。鋭いピークの緩和時間をT12、T22とすると、出発物質、摩擦試料のT12はそれぞれ630、820 µsであった。一方、出発物質のT22は33-41 µs、摩擦試料のT22は、変位量0.56、1.1 mの試料はそれぞれ18、120 µsであり、変位量に対する相関は見られなかった。
本測定では、測定試料のラジカル量が少ないため精度の高い信号が得られていない。本測定で用いた試料のラジカル量は増やすことはできないので、変位量と緩和時間の関係を明瞭化するためには、ラジカル量の多い試料で摩擦実験・パルスESR測定を行う必要がある。
4.その他・特記事項
参考文献: [1] Jani et al., 1983. Phys. Rev. B, 27, 2285–93. [2] Stapelbroek, 1979. J. Non Cryst. Solids, 32, 313–26.
謝辞:実験に協力頂いた中村研究員、浅田技術職員に感謝する。
5.論文・学会発表 なし
6.関連特許 なし