利用報告書
課題番号 :S-20-MS-1045
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :光学異性体をもつ有機伝導体DHTTP系の電子スピン共鳴研究
Program Title (English) :ESR study of chiral organic conductor DHTTP systems
利用者名(日本語) :中村敏和1),西川浩之2)
Username (English) :T. Nakamura1), H. Nishikawa2)
所属名(日本語) :1) 分子科学研究所, 2) 茨城大学大学院理工学研究科
Affiliation (English) :1) Institute for Molecular Science, 2) Grad. Sch. Sci. Eng., Ibaraki Univ.
1.概要(Summary )
茨城大の西川らにより,縮小π電子系ドナーに不斉を導入したキラルドナー(S, S)-DM-MeDH-TTP(Fig. 1(a))が開発され,そのPF6塩およびAsF6塩に関して,結晶構造ならびに物性研究が報告されている.電気伝導度は常圧で半導体的で,磁化率は250K近傍になだらかなピークを持つ低次元反強磁性体的な挙動を示す.しかしながら,室温での電気伝導は比較的高く,2GPa以上の高圧力印加で金属状態が安定化する.この絶縁状態は電荷秩序状態が示唆されるが詳細は理解されていない.また,磁化率は30-40K以下からCurie的な増大を示すが,この系の基底状態も不明である.一方で,ラセミドナー(±)-DM-MeDH-TTP(Fig. 1(b))に対する研究も進んでいる.
我々は,この系の電子状態を微視的な観点から理解するために磁気共鳴研究を行っている.金属絶縁体化機構の起源ならびに低温電子状態を理解するために,2019年度は,[(S, S)-DM-MeDH-TTP]2AsF6塩に対する電子スピン共鳴(ESR)測定を行った.2020年度はラセミ体[(±)-DM-MeDH-TTP]2AsF6塩に対してESR測定を行った.
2.実験(Experimental)
ESR測定は分子科学研究所機器センター保有のBruker E500分光器を用い,単結晶試料を石英棒にマウントし測定した.液体ヘリウムは分子科学研究所機器センターから供給・支援されている.
3.結果と考察(Results and Discussion)
キラル体とラセミ体とは巨視的な測定からは明瞭な差は見られないが,ESR挙動は全く異なっている.ラセミ体のESR線幅は通常の有機磁性体のように温度低下と共に減少し,30K以下で臨界発散と思われるESR線幅の増大が観測される.22K以下でESR信号が消失することから,この温度で反強磁性転移を起こしていると考えられる.茨城大の古谷らはTomonaga-Luttinger液体状態のスピン系に対してESR線幅に理論的考察を行っている.我々は,キラル体とラセミ体の基底状態の違いの起源について,考察を行っている.
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T. Nakamura, The 5th International Symposium of Quantum Beam Science, 2020年11月20日.
(2) 中村敏和, 小林研都, 江幡健太, 西川浩之, 第59 回電子スピンサイエンス学会年会, 2020年11月13日.
(3) T. Nakamura, Modern Development of Magnetic Resonance 2020, 2020年9月30日
6.関連特許(Patent)
なし