利用報告書

六方晶格子を持つ水素化物ハライドBa2H3X(X = Cl, Br, I)のヒドリド導電特性
生方宏樹(京都大学大学院工学研究科)

課題番号 :S-20-MS-0015b
利用形態 :協力研究(ナノテクノロジープラットフォーム)
利用課題名(日本語) :六方晶格子を持つ水素化物ハライドBa2H3X(X = Cl, Br, I)のヒドリド導電特性
Program Title (English) :Hydride conduction in hydride-halides Ba2H3X(X = Cl, Br, I)
利用者名(日本語) :生方宏樹1)
Username (English) :H. Ubukata1)
所属名(日本語) :1) 京都大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Department of Energy and Hydrocarbon Chemistry、Kyoto University

1.概要(Summary )
 ヒドリド(H‒)イオンを含む化合物(水素化物や酸水素化物)は、高速拡散が期待されるH‒イオン導電体の候補物質であり、激しい開発競争が行われている。しかしながら、従来の水素化物や酸水素化物では300ºC以上の高温域でしか高いイオン導電率が得られておらず、電気化学デバイスなどへの応用のためには、より低温での高速拡散が望まれていた。本研究では、電気的な相互作用が強いハードな酸化物イオン(O2–)のかわりに、電気的な相互作用が弱いソフトなアニオンであるハロゲンを含む化合物Ba2H3X(X = Cl, Br, I)に着目したところ、200ºCで10‒3 S/cmを超える高いH‒イオン導電率を見出した。関連物質との比較の結果、同物質は、アニオンが秩序化し、高い対称性の六方晶構造が低温でも維持されることで、優れたH‒イオン導電経路を与えることが明らかとなった。
2.実験(Experimental)
 京都大学陰山研究室にて合成したBa2H3X(X = Cl, Br, I)のヒドリド導電特性を評価するために、分子科学研究所小林グループ所有のインピーダンスアナライザ(Bio-Logic MTZ-35)を用いて、交流インピーダンス測定を行った。温度制御には、電気炉制御システム(東陽テクニカHT-Z3-800)を用いた。また、X=Iの試料については、イオン輸率を算出するために、マルチポテンショスタット(Bio-Logic VSP-300)を用いた直流分極測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
インピーダンス測定の結果、すべての試料で、室温から400 ºCまでの幅広い温度域で高いH‒イオン導電率が観測された(図1)。優れたH‒イオン導電特性を理解する鍵は、関連物質との対比にある。Ba2H3X(X = Cl, Br, I)ではH–とX–が層状秩序した六方晶構造をもつが、ここでX = HとしたBa2H4 (すなわちBaH2)では450ºC以下で対称性の低い歪んだ構造(BaH2低温相)を有する。BaH2高温相は高いH‒イオン伝導を示すが、450ºCの相転移に伴ってH‒イオン導電率が急激に低下する(図1)。このことと結晶構造を考慮すると、層状アニオン秩序によって、Ba2H3Xでは、BaH2高温相に類似した高い対称性の構造が低温まで安定化されたとみなすことができる。実際、図1におけるBaH2の高温領域の導電率を低温側に外挿するとBa2H3Xの導電率に一致する(活性化エネルギーは35–50 kJ/mol)。以上の成果について、Science advances誌に採録決定済みである。また、これに関連した特許を申請中である。

図1. Ba2H3XのH‒イオン導電率の温度依存性および既報のH‒イオン導電体の導電率の温度依存性。

4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
H. Ubukata, F. Takeiri, G. Kobayashi, and H. Kageyama et al., Science Advances, Accepted.
6.関連特許(Patent)
なし

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