利用報告書
課題番号 :S-16-MS-0023
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :分子運動を制限したESIPT色素の理論計算科学
Program Title (English) :Theoretical Calculation of ESIPT Dye with Restricted Molecular Motion
利用者名(日本語) :高木幸治1)
Username (English) :Koji Takagi1)
所属名(日本語) :1) 名古屋工業大学
Affiliation (English) :1) Nagoya Institute of Technology
1.概要(Summary )
縮環π電子系化合物は、剛直で平面性が高い構造、分子間での強いπスタック、電子状態を予測しやすいといった特徴から、合成化学者のみならず材料化学者の注目を集めてきた。一方、固体状態で強く発光する化合物は、さまざまな分野への応用が可能であることから、新規材料の開発が望まれているところである。励起状態における分子内プロトン移動(ESIPT)を経由する発光は、大きなストークスシフトを示すため、蛍光発光の自己吸収を起こしにくいことが知られており、実験と理論両面から長らく研究が行われてきた。これまでに我々は、イミダゾール骨格をもつ縮環π電子系化合物について研究しており、その過程において、ESIPTを起こす蛍光発光性化合物の合成に成功した。本課題では、前年度に続き、これらの化合物の励起状態構造ならびにエネルギー計算を行って、光物理過程を解明することを目的とした。
2.実験(Experimental)
2-フェニルイミダゾールのベンゼン環の2位にヒドロキシ基を有し、芳香環同士を二重結合で架橋した縮環化合物Aと、架橋ユニットを持たないフレキシブルな化合物Bを合成し、種々の溶媒中で吸収と蛍光スペクトル測定を行った。理論計算には、分子科学研究所ナノプラットのクラスター計算機を用い、GaussianプログラムのSAC-CIとTD-DFTによる基底・励起状態の構造最適化を行い、さらに吸発光スペクトルの予測と溶媒効果の考察を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
まず、THF溶液でスペクトル測定したところ、化合物Aは、510 nmに見られる蛍光バンドが大きなストークスシフト(11000 cm-1以上)を示したことから、ESIPTを経由してケト体から発光していることが示唆された(図1、黒線)。これに対し、化合物Bは、350 nmと490 nmを極大とする二重蛍光を示し、それぞれエノール体とケト体からの発光と考えられる。化合物Aの蛍光スペクトルは、溶媒によらずケト体からの発光がメインであり、極性溶媒のMeOH中では485 nmへと極大波長がブルーシフトした。化合物Bでは、溶媒極性によってエノール体とケト体からの発光強度が変化し、DCM溶液で最もESIPTが起こることが分かった。
図1 THF溶液での吸収スペクトル(左)と蛍光スペクトル(右)(実線:化合物A、破線:化合物B)
以上の結果を理論計算した結果、吸収バンドは実測に合致するのに対し、ESIPT蛍光が591 nmと低エネルギー側に見積もられた。今後、励起状態における平面構造に着眼して構造最適化するなど、更なる検討が必要である。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 高木幸治, 伊藤楓, 山田祥寛 第27回基礎有機化学討論会, 平成28年9月2日
6.関連特許(Patent)
なし