利用報告書
課題番号 :S-16-MS-1045(前期)、S-16-MS-1045b(後期)
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :前期,鉄硫黄クラスターの酸化還元状態による[NiFe]ヒドロゲナーゼ活性制御
後期,EPR分光法による[NiFe]ヒドロゲナーゼの鉄硫黄クラスターの酸化還元状態の評価
利用者名(日本語) :太 虎林
Username (English) :H. Tai
所属名(日本語) :奈良先端科学技術大学院大学,物質創成科学研究科
Affiliation (English) :Nara Institute of Science and Technology, Graduate School of Materials Science
1.概要(Summary )
[NiFe]ヒドロゲナーゼは,水素分子の分解/合成を触媒する酵素である.私は「ナノテクノロジープラットフォーム」の研究支援を受けて(H26年度),レーザー光照射により生じるNi-L(Ni-L2)状態が,触媒反応中のNi-C状態とNi-SIa状態間の状態遷移の中間体であることを突き止めた.本研究では,EPRとFT-IRを用いて,活性部位Niに末端配位しているシステイン配位子(Cys546)が脱プロトン化されたと考えられるNi-L3状態の検出に成功した.
2.実験(Experimental)
電子常磁性共鳴分光装置(Bruker E-500)
測定温度:3.8-150 K
3.結果と考察(Results and Discussion)
[NiFe]ヒドロゲナーゼのNi-LにはNiの配位環境が僅かに異なる3つの状態(Ni-L1, Ni-L2, Ni-L3)が存在することが報告されているが,それらの違いは不明であった.本研究では,塩基性条件下でNi-L3状態をEPRにより検出することに成功し,Ni-L2からNi-L3への遷移過程ではCys546配位子の側鎖の脱プロトン化が関与していることを提唱した.光照射時と照射前のEPRの差スペクトルから,弱塩基性条件下(274 KでpH 8.0)で,Ni-C(gx = 2.198, gy = 2.144, gz = 2.010)からNi-L2(gx = 2.300, gy = 2.120, gz = 2.049)への光反応性が観測された.一方,塩基性条件下(274 KでpH 9.6)では,Ni-L2以外にもgx = 2.321に新しいシグナルが観測された(gyとgzのシグナルはNi-L2のシグナルと重なっていた).新しいシグナルは,30 Kで報告されている不安定な状態のNi-L1のg値(gx = 2.26, gy = 2.11, gz = 2.05)と異なるg値を示し,Ni-L2より大きいgx値を示したことから,Ni-L3に帰属した.Ni-L2とNi-L3の違いを明らかにするため,活性部位Feに結合してしるCO伸縮振動(νCO)をFT-IRにより求めたところ,Ni-L3のνCOバンドはNi-L2に比べて20 cm-1低波数シフトしており,[NiFe]ヒドロゲナーゼの各種状態のνCOバンドの中で最も低波数に観測された. Ni-Cへの光照射で生じるNi-L2では,Ni-Fe間に架橋していたH−がH+ として放出され,Cys546配位子の硫黄に結合することが報告されており,Ni-L3はCys546の脱プロトン化状態であることが示唆された.チオレートはチオールより強いσドナーであるため,Niに配位している硫黄が脱プロトン化するとNiの電子密度が上昇すると推測される.Niの電子密度の上昇により,Ni−Feの金属−金属結合を通じてFeの電子密度が上昇するから,Ni-L3ではNi-L2に比べてνCOバンドが20 cm-1低波数シフトしたと考えられる.さらに,Ni-L2とNi-L3からNi-SIaへの変換の祭,1個の電子がNi-Fe活性部位から放出されるが,近位[Fe4S4]p2+/+クラスターが酸化型の時だけ電子を受け取ることができ、Ni-L2とNi-L3からNi-SIaへの変換が行われることもEPRにより明らかになった.
4.その他・特記事項(Others)
無し
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 太虎林,西川幸志,井上誠也,樋口芳樹,廣田俊,第16回日本蛋白質科学会年会,平成28年6月7日.
(2) S. Hirota, H. Tai, K. Nishikawa, S. Inoue, and Y. Higuchi, 11th International Hydrogenase Conference (Hydrogenase 2016), 2016/7/11.
(3) Y. Higuchi, N. D. M. Noor, H. Matsuura, K. Nishikawa, H. Nishihara, K-S. Yoon, S. Ogo, H. Tai, S. Hirota, and Y. Shomura, 11th International Hydrogenase Conference (Hydrogenase 2016), 2016/7/13.
(4) 許力揚,太虎林,井上誠也,西川幸志,樋口芳樹,廣田俊,第10回バイオ関連化学シンポジウム,平成28年9月7日
(5) 太虎林,許力揚,井上誠也,西川幸志,樋口芳樹,廣田俊,第54回日本生物物理学会年会,平成28年11月25日
(6) 太虎林,許力揚,西川幸志,樋口芳樹,廣田俊,日本化学会第97春季年会(2017),平成28年3月16日
6.関連特許(Patent)
無し







