利用報告書

原子間力顕微鏡を用いた臨床微生物の形態観察とその有用性の評価
塚本和己, 藤田智也
茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター

課題番号 :S-15-NM-0057
利用形態 :アカデミア
利用課題名(日本語) :原子間力顕微鏡を用いた臨床微生物の形態観察とその有用性の評価
Program Title (English) :
利用者名(日本語) :塚本和己, 藤田智也
Username (English) :
所属名(日本語) :茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター
Affiliation (English) :

1.概要(Summary )
寒天培地上における細菌のコロニー形態は、細菌細胞の形状や細菌間の相互作用と密接に関係しており、コロニー形態、コロニー形成メカニズムを理解するうえで非常に重要であり、微生物生態学において有益な知見になると考えられる。これまで、コロニー形態観察は光学顕微鏡をはじめとして、様々な顕微鏡を用いて行われてきたが、試料を作製する技術的な難しさもあり、特にコロニーの内部構造に関する報告は少ない。そこで、本研究では、コロニーの樹脂包埋切片を作製してその原子間力顕微鏡(AFM)およびレーザーラマン顕微鏡観察を行うことにより、コロニー内部構造の詳細な観察を行った。また、コロニーの電子顕微鏡観察も行うことにより、樹脂包埋切片法との比較を行った。

2.実験(Experimental)
供試細菌は、グラム陽性菌であり、大腸菌とともに細菌研究の代表的モデル生物である枯草菌(納豆菌)を用いた。樹脂は、包埋後のコロニー観察を容易にするため、透明度の高いものを選択し、固定および脱水はコロニーの形態維持と樹脂との相性を考慮し、グルタルアルデヒド固定、エタノール脱水を行った。切片は、1 μm以下で薄切後、脱イオン水上で伸展させてからガラス基板上に移し、その後、40℃のブロックヒーターで十分に乾燥させてから、顕微鏡観察(AFM; OLS3500/SFT-3500、高速レーザーラマン顕微鏡;RAMANplus)を行った。樹脂包埋切片法との比較のための電子顕微鏡(Miniscope TM3000)観察は、エタノール脱水後、t-ブチルアルコールにて凍結乾燥処理し、その後、金のスパッタリングコートしたコロニーにて行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
枯草菌コロニーは、凍結乾燥後の電子顕微鏡観察では約20%収縮していたが、樹脂包埋後のコロニーは約4%とほとんど収縮しておらず、電子顕微鏡観察における前処理の方が、コロニー形状に与える影響が大きいとわかった。枯草菌コロニーの樹脂包埋切片のAFM観察では、無染色にもかかわらず、菌体一つ一つの断面はもちろん、コロニーと一緒に包埋した寒天培地面も明瞭に観察できた。また、電子顕微鏡では明瞭に観察できなかった菌体の周りやコロニー全体を覆っている菌体外マトリックスの存在も確認できた。
切片の高速レーザーラマン顕微鏡による観察を行ったが、コロニー領域、樹脂領域、寒天培地領域においてラマンスペクトルに明瞭な差が得られなかった。これは、切片が1 μm以下と薄いためと、基板がスライドガラスであったため、切片のラマンシグナルを得るのに適さなかった可能性が考えられた。
AFMを用いて細菌を観察することによって、これまでにないコロニー内部構造の画像を得ることができ、微生物観察および検査技術の進展の一助になる可能性を本研究で見出した。

4.その他・特記事項(Others)
特になし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 塚本和己1, 熊田薫2, 桜井直美1, 藤田智也1,
(茨城県立医療大1, つくば国際大2), 第38回日本分子生物学会年会, 平成27年12月2日

6.関連特許(Patent)
特になし

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.